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とても小さな負けず嫌い(アルレイ)




「聞き分けのいい男でいんのって、マジでしんどいよな・・・」



そうぽつりと呟いたアルヴィンが、1人酒場のカウンターに腰掛けつつ、ビールを呑んでいた。
帰り道に買った新聞紙を手に取り、一面に目を通すと、記事の担当の欄には、「レイア・ロランド」と書かれている。そう、こうレイアの名前を見かける事は、本当に多くなり、名前も浸透し始めている。
今やもう偉大な存在となってしまったジュードといい、レイアといい、なんなんだよこいつらはと、正直悔しい気持ちがあることくらい知っていた。
勿論、当の本人達には言えないし、それに負けないように、自分だって頑張らなくてはいけないことも、わかっている。

それでも、連絡を取る頻度が減ってしまった事の方が、アルヴィンは寂しさを隠せなかったりしていたのだ。
前は返信スピードに困るくらい、メールの嵐が止まらなかったのに、今は返事が来たらいい方。
忙しいのもわかっているから、なかなか会える機会がなくても、メールだけでも入れば、それだけで、充分だったのにと。

(本当俺って、淋しがり屋かよ。とてつもなく、情けなさすぎ)

ぐいっと、彼はビールを一気に飲み干しては、次もおかわりでまたビールを頼んだ。

(いいんだよ、あいつが元気で、落ち込まないでいてくれていれば、俺はそれでいい)


そうして、カチカチとGHSを動かし、写真のフォルダを開いた。写真等あまり撮る機会など無いに等しいのだが、数枚ほどフォルダの中に入っている。
ルドガー達との集合写真、ルドガー、エル、レイアと4人で写った仲間のサインポーズ、そして、レイアとのツーショットの写真だ。

「え、写真撮ったりしないの!?」
「撮らねえよ、俺は前の立場上、自分の姿を残しておくわけにはいかなかったし、それに、思い出を形に残しておくの、あんま好きじゃないんだ」

レイアにGHSを送り、カメラ機能の使い方をマスターしたいとレイアから頼まれた時の、このレイアの驚き具合を、アルヴィンは忘れない。
撮らないとはいえ、使い方を知らないわけではなかったので、とりあえず一通りは教えた。彼女のことだ、たくさん写真を撮りまくっては、たくさん送ってくるだろう。アルヴィンはくすっと笑っては、レイアにGHSを返す。


「ね、アルヴィン。こっち向いて」
「は?なんで?」
「いいからいいから」

振り向いた先には、カシャッと、レイアのGHSがアルヴィンを捉えた音。

「いぇーい、いただきっ」
「こら、お前、さっきの俺の話、聞いてたのか?」
「聞いてたよ、でもいいじゃん、アルヴィンのGHSには残してないし、これはわたしのだもん」

にこにこしながら、レイアはGHSとにらめっこしている。
馬鹿野郎、そんな撮られるかわかってない俺の顔なんて、絶対変な顔してるに決まってんだろ。そう思いつつ。

「じゃあ、もう1回」
「やだ。やです」
「アルヴィンのピンじゃないよ、わたしも一緒に」
「なんで」
「だって、今だったら、アルヴィン、写真に写ってくれそうな気がするんだもん。これ逃したら、もう撮らせてくれなさそうだし」


レイアと一緒の写真。つまりはツーショットだ。この画面の小さいGHSに収まるには、かなり密着しなければならないこと。果たして彼女は理解しているものなのか。

「・・・わーったけど、おたくはいいの?多分、俺と密着しないと、画面入らねーよ?」
「え?写真ってそういうもんでしょ?」
「あー・・・はい、そうですね・・・」


これは負けた。降参だ。レイアは自分とくっつく事に対しても、なんとも思っちゃいやしない。
男として意識したりしないのか。それなら思い切り、肩でも抱き寄せてやろうか。いらんことを考えている間もなく、レイアはアルヴィンの首もとにピタッと寄り添い、ちょうどいい位置を探しながら、シャッターを押そうと頑張っている。

「ったく、いいよ、俺が押す」

片方の手が取られれば、レイアを抱きよせたりしなくてすむ。よくよく考えれば、そんなことをしたら、かなりおこられてしまうのが、想像つくからだ。正直こんなに密着されてしまったら、尚更。

そうして頑張って撮れた写真は、上手い具合に撮れていた。


「ありがとう、アルヴィン。大事にするよ!」
「いえいえ。あ、ちょい待ち、今保存してるから」

と言いつつ、今撮った写真を自分宛に送信していたアルヴィン。送信履歴も消した後、レイアにGHSを返した。
だから、この写真が自分のGHSに入っていることを、レイアは知らないのだ。

こんな思い出を残すような事をしてしまって、と思った。それでもやはり、暇さえあれば、この写真をついつい見てしまっていた。恥ずかしくて待ち受けにはできないが、この画面で止めていることが多いので、あまり変わらない。

「やっぱ、会いたいよなぁ・・・」

実際のレイアの空気を、身近で感じたい。写真を見れば見るほど思い知らされてしまって、ほら、こうなるから、残しておけないんだよと、アルヴィンはGHSを閉じ、提供されていたビールを呑む。


「わたし、ナップルジュースでお願いします」
「かしこまりました」


その瞬間、アルヴィンはマスターが向いている視線の方向を振り向く。


「やっほー。アルヴィン」


隣には、GHSを開き、画面にアルヴィンとのツーショット写真を写し、それをアルヴィンに向けて手を振っている、レイアがいた。


「っ・・・なんだよ、びっくりした、つか、見せんなよ恥ずかしい」
「気のせいかな、同じ写真が今、見えた気がしたんだけど」
「・・・気のせいだろ、気のせい」
「・・・まあいっか、久々にアルヴィンに会えて嬉しいから、スルーしといてあげるね」



新聞記者として成長して、言葉の使い方まで上手くなったか、こいつ。
今日は聞き分けのいい男でいるの、止めてやろう。

会えて嬉しいのは、自分もだからだ。




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