「あの、面白い本があるんです、よかったら、読んでみませんか?」
「ごめんなさい、文字がたくさん書いてあるのは、苦手なの」
「そうですか、じゃあ、もしも興味があったら、読んで見て下さい」
ジュードが差し出した本は、ミラに受け取ってもらうことは叶わなかった。
本当に違うミラなんだなと、薄々感じては、今、目の前にいるミラと、ジュードは打ち解けたいと願っていた。
共に旅をして、一度は心を通わせる事ができたのだから、また再び、心を通わせることはできるはずだ。
かといえ、思いつくのは、一年前にいたミラが好きだったものばかり。
本だったり、手料理だったり。
以前は笑顔を見せてくれたが、もう笑顔すら見せてくれない。
「ジュード、君はどうして私に構うの?」
きっと、ジュードが知っている『ミラ』に会いたいだけなんだと、ミラは気づいていたが、それを口に出したくはなかった。
ここにいるのは、私。ジュードには、今ここにいる私を見てほしいのに、きっと彼は見てくれない。私に彼女を重ねている。
「僕は、ミラが思っているような、器の小さい人間なんかじゃ、ありません」
ジュードはミラを迷いのない瞳で見つめた。
「あなたは確かに、僕の知ってるミラじゃない。それに、貴方と彼女は違う。だから、今、ここにいる貴方と、僕は仲良くなりたい、ただそれだけなんです」
「変な人ね、君は」
ジュードの言葉を耳にしたミラは、先程受け取るのを拒否した本を、ジュードから取った。
「あ」
「面白いんでしょう?ちょっと興味もあるし、借りるわ」
「はい。ありがとう、ミラ」
「別に、お礼をいわれるような事なんてしてないわよ」
なんて柔らかい表情をするんだろう。
悔しいが、照れくさくなって、顔が赤くなってしまったではないか。
(仲良くなりたい、ね)
下心でもなんでも、嘘ではない事はわかっている。この少年は他の人間とは違う。興味がある。
「ミラ?」
「いえ、なんでもないわ」
彼を知れば知るほど、離れられなくなってしまうこと、彼と別れる時に辛いこと、わかっていても、もう、止まらないんだ。
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タイトル・反転コンタクト
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