At any time only you(アルレイ)
リーゼ・マクシアにいた時には、ほとんど触れる機会がなかった機械と、レイアは向かい合っては、奮闘していた。
新聞記者となって、記事をまとめるには、パーソナルコンピュータと呼ばれるものを、使いこなせるようにならなければいけないらしい。
エレンピオスの使用しているものは、すごいなと思わざるを得なかった。
最初は文字も打つことも難しく、頭を抱える日々が多かったが、レイアの周りには機械操作に優れた人物がいてくれていた為、毎日少しずつ練習を重ねては、素早く文章を打てるようにまで成長を遂げる。
「さっすが、努力家だな」
レイアが打ち込みを終えて、パソコンの前にぐったりとしている所に、アルヴィンがコーヒーを持って現れ、テーブルの上にそっと置いた。
「……よかったぁ、できたよ」
「ったり前だ、俺という頼りになる奴が指導したんだ、できて当然だろ」
「違うもん、主に教えてくれたのはバランさんじゃん、アルヴィンは後ろで見てたり、わたしの邪魔したり……」
「まったく効果がなかった、とは言わせねーけど?」
アルヴィンはレイアの帽子を外し、人差し指でくるくると帽子を回しはじめる。
レイアの髪が解かれ、ふわっと宙に舞う。
レイアは顔を赤くし、帽子を返せとアルヴィンに突っ掛かる。
ぽかぽかとアルヴィンの体にレイアの拳がぶつかる。
隙をついて、彼はレイアの腕の動きを止める。その時にレイアと目を合わせては、レイアはすぐに目を逸らして俯いた。
レイアの目は充血し、赤くなっている。連日、遅くまで練習していたのがよくわかる。
根詰めているレイアを、少しでもリラックスさせようと、アルヴィンはレイアをからかいに訪れていた。
邪魔をしたりもした。勿論レイアには怒られた。だが、それでいいとアルヴィンは思っていた。
「……うん、効果がなかったわけじゃ、ない」
「だろ?俺、そういうのはちゃんとわかってるつもりだから」
「自分の為に頑張らなくちゃって思ってたけどね、教えてくれたバランさんや、なんだかんだで、見守ってくれてたアルヴィンの為に、結果はちゃんと残したいって、そう思ってたの」
「わかってるさ、そんだけ目が赤ければな」
「……帽子で隠れてたのに、アルヴィンが取るから…目が赤いの…バレちゃったじゃん」
アルヴィンがようやくレイアに帽子を返し、帽子で顔を隠しながら、レイアは悔しそうに呟いた。
「レイア」
名を呼ばれ、チラっと見たアルヴィンは、顔の横に掌を出して、ひらひらと動かしている。
ああ、そうか、お疲れ様のハイタッチだろうなと思ったレイアは、手を出して、アルヴィンと手を合わせようとする。
だが、掌が触れ合う事はなかった。
アルヴィンはレイアの指の間に指を挟み込む。
「え………」
アルヴィンはくすっと微笑んだまま、手を左右に動かし続けた。さっき、ひらひらと動かしていたように。レイアと指を絡み合う事はなく、指先はピンと伸びたままて。
掌も触れ合わない、互いの指と指の間に、指を挟み込ませて。
このなんとも言えない状態が、なんだかとてももどかしい。
「意地悪だね」
「それほどでも」
「でも、これが、わたしたち、なのかな」
「いつかは絡み合うさ、二度と離れなくなるくらい、な。俺は本気だけど」
「ちょっ、アルヴィン!」
「いつかレイアが絡ませてくれるの、俺は待ってる」
彼女が自分探しにここに来たのを知っている。
彼女が「あいつ」をまだ想っていることも知っている。
だからこうして、少しずつ、彼女の隙間に入り込んで、自分という存在を大きくさせてという、ずるい方法を使う。
本当はただ、自分が彼女の傍にいたいだけなのだ。
「ほら、終わったんだろ、パソコン、シャットダウンしとけ」
レイアから手を離し、ぐるっとパソコンの方に向かせて、レイアの背中を押した。
レイアは困惑しながら、パソコンの電源を落とす。画面が真っ暗になり、背後にいるアルヴィンの姿が画面に映ると、画面越しに見つめ合ってしまい、レイアは硬直して動けなくなった。
(……また、眠れなくなる。目が赤いの、パソコンのせいだけじゃ、ないんだから)
そうレイアは、心の中で呟いていた。
prev / next