本当はもう少しだけ、大人になっていればと思った。
まさか彼女が、エレンピオスに滞在するなんて、思ってもみなかったから。
だから、手紙のやりとりではなく、久しぶりにレイアと顔を合わせた時、指先が震えていて、驚いていた。
「こんにちは、アルヴィン」
それは何度も何度も、記憶の片隅で、思い出しながら聞いていた、彼女の、本物の声だった。
手紙を読んでは、会いたくて、声が聞きたくて、思いに馳せていた。会いに行こうと思えば、簡単に会いに行けた。
それはできなかった。敢えてそうしようとはしなかった。
少しでもいいから、年相応な空気を醸し出せるようになるまでは、自分が素直になるようになるまでは、そうしてはいけないと思ったからだ。
だが結局、自分からではなく、訪れてきてくれたのは、レイアの方。
レイアは、アルヴィンにエレンピオスに行くという事を告げていなかった為に、突如、アルヴィンの前に現れた時、アルヴィンは幻かと思い、一瞬だが、ドアを閉めてしまった。
自分探しの旅に行くと、手紙には綴られていたが、エレンピオスに来るとは。
自分の彼女への会いたさが限界になっていたのか。
再び彼は、ドアを開ける。
「びっくりした?本物だよ」
レイアはにっこりと微笑んで、アルヴィンを見た。
髪も少し伸びて、髭も生えて、少しだけ別人になっている気がしたけど、自分を見て、目を丸くしている彼を見ては、彼は変わってないんだなと思っていた。
彼は思わず手が伸び、レイアを抱きしめていた。
ドアは閉められ、玄関でレイアはアルヴィンの腕の中に閉じ込められ、慌てていた。
「……本当だ、本物だ」
「っ…そうだよ、本物だよ」
「っとに、アポなしはやめろよ、こっちにも覚悟ってもんが必要なんだ」
彼には、大人の余裕を持って、彼女と向かい合う。そう思っていたのに、欲求が抑え切れずに、本能に身を任せて、彼女を抱きしめてしまっていた。
レイアを驚かせてしまっただろうが、もう、余裕すらない彼は、体を離しては、レイアの額に、頬に、唇を這わせて。
「ずっと………会いたかった……」
二人はしばし見つめ合い、レイアは恥ずかしがって、言葉が出なかった。
ちょっと困った顔をしつつも、次にどうされるのかは、わかっていたから。
「…ここには、してくれないの…?」
ちょんと指で触った彼の唇。
「……俺がしないわけ、ないだろ」
せっかく自制心のカケラを保っていたのに、彼女はこうしてまた、アルヴィンを壊していく。
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タイトル・反転コンタクト
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