SS | ナノ


伝わるまで伝え続ける






あなたは、いつだって笑っていた。
だけど、それが本当の笑顔かなんて、わかるはずがない。
だから、わたしは気がつかない。
あたしはあなたをちゃんと……見てあげられている?
あなたが辛い時、わたしは傍にいてあげられている?

きっとわたしは……気付けてないんだろうな。

気付けて……ないんだろうな……


シャン・ドゥの中央街。

そこに、アルヴィンはいた。



ちょうど、建物の補修工事をしている所があった。
なんとなくだが、その光景から目を離せなくなって、ずっと見ていた。
修理も終わり、まだ少し真新しさが残るその場所は、どこか違う感じがして、仕方なかった。



「建物も変われば…人も変わる。なんだよ、何もかも変わっちまうんだな…」



自分の周りにはもう、かつての仲間はいなくて、アルヴィンは度々、独り言を漏らしていた。
わからないが、そう感じて思ってしまうのは…やっぱり、淋しいからなのだろうか。
だけど、そんな感情は、当の昔にすべて捨ててしまったはずだった。
ジランドを倒して、ミラが死んで、ジュードを殺そうとして、そして…レイアをこの手で………
その頃から、忘れていた気持ちが、むくむくと膨れ上がってきているのを感じていた。
吹っ切れたあとでも、未だにこういう気持ちが残る。
きっと一生、付き合っていかなくてはならないものなんだろう。


そんな時だった。



「アルヴィン君!」
「お、レイア……」



息を切らして走って来たのは、レイア。


「どした?すんごい汗だくだぞ。そっか…俺に会いたかったんだ?」


アルヴィンはいつものようなノリで、彼女に話し掛ける。


「っ……そうだって言ったら……?」

「えっ………マジかよ」




アルヴィンは数回、高速で瞬きをした。
レイアがそういうことを言ってくれるのは……ほとんどない。


「だって全然…会えないじゃん。すぐに…アルヴィン君、いなくなっちゃうし………」


呼吸を整えた後、レイアは顔を上げて、微笑んだ。
彼が自分に会いに来てくれることが、当たり前だなんてバカみたいに思っていた。

俗に言う「うぬぼれ」だ。


「…そう…だよな。ごめん…ちょっと……色々あってさ」


階段の上へとアルヴィンは座り込んだ。
声のトーンの低さから、レイアはマズった?と思って、おそるおそるアルヴィンに話しかけた。


「ごめん……迷惑だった?」

「なんで?」

「ちょっと…そんな感じがしたから」

「違う違う!!」


不安な顔を見せたレイアを見かねて、手をぶんぶんと振りかざし、アルヴィンは軽く笑う。
すべては、彼女を安心させるためだった。





「おたくがさ、会いに来てくれるなんて嬉しいよ」


そのままアルヴィンは、レイアを抱き寄せた。
レイアも応えるように、彼の背中に腕を回した。
そうしてそのまま、時間は過ぎていく。
やがてレイアは、宿屋へと戻っていった。
アルヴィンはレイアを送った後、シャン・ドゥ内の、自分用の秘密の場所へと足を運ばせる。
誰もこない、誰も知らない……場所。



「本当……なんだろうな。なんでこんなに……切なくなるんだ?」


ここ最近、ずっとそうだ。みんなして、自分を棚にあげるのだ。

信用してくれるとか?
自分の危険も省みない、仲間を守ることのできる人間?

実際に自分は強くなんかないというのに。
逆にそういうことをされると、かえって、惨めになる。

強くなんかない。
守れる力だって、持ち合わせてなんかない。
特別な人間なんかじゃない。
自分だって普通の人だ。実際にみんなも変わった。
自分だけが取り残されてしまっているみたいで、とても苦しい。



「はっ……なに感傷にひたってんだよ……情けねえ……」


アルヴィンは軽く苦笑し、とってある部屋へ戻ろうとする。
だがそこで、一つの影が…階段にあるのを確認した。


「……?」


忍び足で近づくと、なんとそこには……レイアがいた。



「レイア……?」

「………………」

「なんでここに……」

「いちゃ、まずかった?」



若干だが、彼女の口調が少々怒りっぽかったように感じた。
沈黙を作らせないように。アルヴィンは会話を続けた。


「もう寝てるのかと……だってもう…1時だぜ?」

「前にアルヴィン君が、ここにつれてきてくれたでしょ。わたし、この場所が好きなの。せっかくここにこれたんだから、寄っとかないとって思って」

「だからって、こんな深夜に、女の子一人で出歩くなよ。危ないだろうが」

「大丈夫だよ、平気だったし」

「バカか、俺が平気じゃねえんだよ。何かあったらどうすんだ」



アルヴィンはレイアのおでこに軽くでこピンした。
こいつは本当にわかってるんじゃないかって、思う時がある。
こんな状態の時に、彼女は自分の近くにいる。




「……どうして?」

「……何が?」

「わたしじゃアルヴィンの支えにはなれないかな?わたしが傍にいると…苦しいの?」


アルヴィンの読みは当たっていた。レイアは気にかけていたのだ。

アルヴィンがいつもより元気がなかったし、なんだかとても淋しそうで。
あなたは、何も話してくれない。

ねえ、どうして?どうして何も話してくれないの?



「………………」

「アルヴィン君………?」

「おたくが傍にいて、苦しくなんか……全然思わないさ」



一歩一歩、レイアへ足を運ばせるアルヴィン。



「だけど、ごめん…レイア。俺、こういうの……苦手なんだ。ずっと…そうしてきたから、その環境になれちゃってよ」




こう言うことで…彼女にショックを与えてしまうかもしれない。
それでもわかってほしかった。これが自分なんだということを。



「でもね、アルヴィン君。環境は、変えられるんだよ」


レイアはアルヴィンを抱きしめて、背中を優しく撫でる。


「わたしだって……経験したことある。慣れるのがどれくらい時間がかかるかも、知ってる」

「レイア」


「でもアルヴィン君、これだけはわかって。あなたが一人で悩んだり、苦しんだりしてるのを…あたしは、見てられない。傍にいたい」



アルヴィンの腕が、レイアを優しく包む。
彼女の気持ちが痛かった。それは悪い意味などではない。


そうか、自分は一人じゃ、ないんだ。



「おたくは魔法使いかよ」

「本当に魔法が使えるなら、自分に使うよ。もったいないじゃん」




レイア。

俺も…君が辛い時、苦しい時…いつでも気付いてあげるように、ちゃんと見てやるから。

たぶん君に、俺の内面を話した時、その時…今まで以上に、深く…付き合っていける。

だからそれまで……待ってろ。



いつかちゃんと…話すから。








top

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -