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半径1メートル(アルヴィン)






「……アルヴィン」


「…ジュードか、どうした?」




あの時のレイアの傷口が、若干開いて、一行は休息をとっていた。
もちろん、レイアが調子を崩した瞬間を見ていたアルヴィンは、自分が抱き抱えて、運んでいってやりたい限りだったが、手を伸ばしかけたところでやめた。
その際、自分の、汚れきっている手を見つめ続けては、やがて握り潰す。


(……わかってる、俺にそんな資格なんて……)


ジュードとミラが、レイアを抱えて歩いていた。
本来なら男の役目だ、ここに手持ち無沙汰の大の男がいるのだから、運ばせればいいだろうと、ミラが黙っているはずがない。
そのミラが、自分に何も言って来ないってことは。

(…聞いたよな、そりゃあ………)


また、こうして気を遣われる。
まだ、それに抵抗する術は、今のアルヴィンには持ち合わせてなどいなかった。
今まで当たり前にいた、この場所なのに、どうして今は、こんなにここにいたいって思ってしまうんだろう。
自分は嫌われていた。嫌われてもいいって思った。

だけど今は、違う。嫌われたくない。






「……レイアは、どうだ?」

「……うん、大丈夫。ちょっと調子に乗っちゃったみたい」

「そうか………」



ジュードの治療により、レイアの傷口は塞がれた。レイアは目を覚ますことなく、未だ眠りについている。
アルヴィンはベッドに横たわっているレイアに、視線を向けた。
レイアが辛そうな、痛そうな、苦しそうな顔をしていない。それを確認しては、アルヴィンは胸を撫で下ろした。


「……正直、僕も、どうしたらいいかわからない」


アルヴィンの憂いを帯びた表情を横から眺めながら、ジュードが呟く。


「……わかってるよ」


らしくない、弱々しい声で、アルヴィンは応えた。
それはそうだろう。仮にも自分はジュードを殺そうとしたのだから。殺そうとした人間と、殺されそうになった人間が今、こうして仲間として一緒に旅をしているなんて、普通では有り得ない事。
アルヴィンもそうだった。優しくすればいいのか、いい人になればいいのか。そうすれば許してもらえるのか。結局まだ、答えは見つかってなどいない。


「……レイアとだって、あれ以来、ちゃんと話してないでしょう?」

「……話せないだろ、何話していいか……今までだって、どう話していたかなんて……」


自分にぶつかってきてくれたレイア。
なんでお前にわかって、俺にはわからないんだ、そんな葛藤で苦しくて、真っ直ぐなレイアを見るのは辛かった。


「だったら、今、話しちゃえば?」

「は………?」

ジュードの提案にアルヴィンは驚きを隠せなかった。
レイアは眠っているといるのに、まさか無理矢理、起こせということか。
そうではないとは思った。彼はジュードの次の言葉を待った。

「今なら……レイアも眠ってるし、言いたいことと言えちゃうんじゃない?考えるのと口に出してみるのとは、違うと思うよ」



(―――なんだよ、それ)


だけどジュードが言ってることはごもっともで。
本人を目の前にすると、何を話したらいいのかわからなくなり、気まずくなり何も話せずに終わってしまう。
彼女が眠っているのなら、聞かれていないのなら、ジュードの言うとおり、彼女に伝えたい事が言えるのかもしれない。


「……サンキュな。数分だけ、話してみるわ」


ジュードはアルヴィンを横切り、部屋を後にする。
アルヴィンは、足をゆっくりと動かしながら、レイアの元へと歩み寄った。



「レイア………」


アルヴィンは小声で名前を呼んだ。
初めて、自分の名前を呼んでくれた、あのレイアの笑顔を、もう見ることはできないと思った。
自分が今ここにいる仲間たちは、最初からそうだったではないか。誰一人、自分に対して、普通に接してくれていた。こうならないとわからないだなんて、笑うしかない。



「……ごめんって、何度言っても足りないけど………」




『アルヴィン君!』




「……またいつか、俺に笑顔を見せてくれないか。俺は、レイアの笑顔………好きなんだ。こんなこと言える資格なんて、ないけどさ……」





今の俺には、これが、精一杯だった。
その時、レイアが微かに笑ったような、そんな気がした。




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