半径1メートル(レイア)
……わたし、どうやって、アルヴィン君と喋ってたんだっけ……?
ずっと思ってた。
隙のない人なんだって。
大人の人だって、ずっとずっとそう思ってた。
けどそれは、わたしの……勘違いだったんだね。
大人な人だって、わかってるよ。
でもそう思ったのは、わたしが、アルヴィン君のこと……何にもわかってないっていう、証拠だったんだよね。
「……ジュード、ア、アルヴィン君、大丈夫そう?」
「レイア……。大丈夫……じゃないんだろうね、今日もやっぱり、うなされてる」
「……そう」
アルヴィン君が、わたし達の元に戻ってきてから、アルヴィン君は、前みたいな余裕なそぶりを見せなくなった。
いつも一歩引いていたけど、更に一歩引くようになった。
わたしはまだ、『あの時』を思い出して、彼に近づくのが……正直怖くて。
こんな時でしか、今はアルヴィン君の近くに行くことができない。
「ただ……ずっと言ってる言葉があってね」
「え、何?」
「……レイア、ごめんって」
「……!………そう、なんだ………」
また胸が痛くなる。
全部、良いわけじゃないのも本当だよ。
言葉だって、交わした数、あれ以来、ほとんどないし。
何を話したらいいのか、わからない。
「……ジュード、わたし……」
わたしはもう、このままじゃダメなんだって、動かなくちゃいけないと思ったから、顔を上げて、ジュードに言わなくちゃって思った。
わたしの顔を見て、ジュードはもう、わたしが何を決めたのか、わかってくれていたんだ。
「……わかったよ、レイア。僕はちょっと外に出てくるから」
わたしの考えを察知したのか、ジュードは優しく微笑んでくれて、彼の部屋の前から遠ざかっていった。
「ありがとう………」
わたしはそう呟いて、ジュードを見送った。その後、目の前にあるドアを恐る恐る開けた。
部屋の中では、アルヴィンがベッドで横になって、眠っていた。
わたしはゆっくりと近づいて、アルヴィンの顔を眺めた。
(……こんなに近づいたの、いつぶりかなー……)
あの時のわたしは、ジュードを守ることで、本当に精一杯で、力では敵わないってわかっていたけど、そうしなきゃ、ダメなんだってわかってた。
だけどね、守ろうとしたのは、ジュードだけじゃないんだよ?
「……レイ…ア……………」
アルヴィンの口から、わたし名前が紡がれる。
やばい、起きた?と思って、身構えたんだけど、そんな気配はなくて。
「……本当だ………」
ジュードの言う通りに、彼は譫言で、わたしの名前を呼んでいた。
毎日、苦悩しているんだろうか。
(……だけど)
わたしだって。わたしだってそうだ。あなたが苦しんでるのは知ってるけど、辛いのはわたしも同じだ。
「……わたしも、まだ……どうしたらいいか………わからないんだから………」
毛布から出ていた、アルヴィンの右手。
わたしはその手に触れて、ぎゅっと握りしめた。
大きな大きな、力強さを感じさせる、てのひら。
「………めん……な」
またアルヴィンから、何かを呟いた声が聞こえてきた。
「……もう………わかったから………」
わたしは、声に応えるかのように、更にぎゅっと、アルヴィンの手を握りしめてみた。
本当に、あなたは。
もう、やめてよ。
だから、ほっとけなく……なるんじゃん。
また少し、何かがわかった気がした。
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