迷い戸惑う手でまたね
いつも胸の奥に閉じ込めていては、何もなかったようにするつもりだった。
アルクノアが解散し、汚れ仕事とはおさらばかと言われたら、そういうわけではない。
世界各地には、アルクノアに所属しているエレンピオス人がいて、ガイアスと同様に、自分達の進もうとした未来予想図に、納得できない人もいる。
ジランドの側近の一人でもあったアルヴィンは、リーゼ・マクシアに残っているエレンピオス人の元へ足を運ばせて、事の成り行きを説明し、理解してもらおうと説得を続ける日々を続けていた。
ユルゲンスと行っている、リーゼ・マクシアとエレンピオスを繋ぐ仕事をする以上、これは自分がしなければならないこと。
無論、簡単に和解ができるはずなんてなかった。やっぱりお前は信用できないだの、これだから名家出身の人間はだの、聞き慣れた台詞をまた、たくさんたくさん浴びせられた。
傷つかないし、傷ついたりなどしないと思っていた。慣れっこだったはずだった。だが話す度に胸がちくりと痛くなった。
こんなどうしようもないことを頑張った所で、何も変わらないと思うはずなのだが、そうは思えなかった。これはきっとジュード達の影響だということはすぐにわかっていた。
「言いたいことは、それだけか?なら、今度は俺の言いたい事を言わせてくれ、そして聞くんだな。俺だって聞いたんだ、それぐらいできるだろう?」
こんなことまで言えるようになってしまうなんて。
神経は使うし、熱くなっている自分が、まるで自分ではないみたいで、自宅に帰っては、真っ先に鏡を見て、自身の表情を確認する。
「………俺、だな」
「また鏡見てるんだ」
声と同時にアルヴィンの大きな体に、勢いよく抱き着いてきたのは、レイア。
「あ?」
「もう、またそんな顔してる、うらうらうらー♪」
アルヴィンから離れたレイアは、今度は跳ね上がって、アルヴィンの両肩に組み付いた。本当にこいつはなんて元気なんだ。自分は慣れない神経を使って、心身もろともくたくただ。
それでも、イラっとしたりなどしない。この少女の小さな重みは、両肩にいくらでも抱えてやりたい。
首を動かしたアルヴィンの頬が見え、レイアは頬にふうっと息を吹き掛けながら、唇を触れる。
「っと、レイア」
ごめん、ついと言って唇から舌を出しては、ちっとも申し訳なさそうには思っていない。
この緩やかに穏やかにやってくる、無縁だと思っていた時間。
「大変だって事、知ってるよ」
「いや、大したことねえよ、まあ、らしくねえなっては思ってるが」
「でも、それでも、今のアルヴィンは、前に比べてずっと、人間らしいって思うよ」
まあ確かにそうかもしれない。
らしくないことをして、熱くなって、ちゃんと話を聞いて、相手を知ろうとし、言いたいことを言う。
簡単な事だと言うが、自分にはとっても難しい。
「偉い偉い」
「………はいはい」
彼女が子供扱いしてるつもりはないとわかっていても、こうして頭を撫でられ、そう言われては、子供かよ俺は、とも思ってしまう。
そうされて、ちょっと嬉しかったりするのは、レイアには秘密だ。
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タイトル・反転コンタクト
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