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沈黙の時間をやさしいと思った










初めて、自分は恋をしているんだと思えた。
それはきっと、初めて、彼女と会った時から。心を閉ざしてた自分に、初対面から、ぐいぐいと入り込んでくる、その積極的さが苦手だった。作られた、たった一枚の心の壁をこじ開けてこようとする。女の子は嫌いじゃない、だけど彼にとって、彼女は別格な存在であった。
大人だから、どんな状況にも、対応しなければと思っていた。苦手な相手とも、スムーズにやり取りできるようにならなくてはいけない。
それでも、レイアと会話する時には酷く緊張し、話を始めれば、心臓が小刻みに震えた。


「アルヴィン君って大人だね」

「そりゃあ、レイアちゃんより11年長く生きてるからな」

「うん、そうだよね、うん……」



大人の対応ができるよねとレイアは思っていた。
知っていた。彼にどれだけ愛の言葉を囁いてもらっても、それが嘘じゃないとわかっていても、彼の心の奥にある、あと一枚の壁を取り切れていないことに。
彼はまだ完全に心を許してくれたわけじゃなかった。本音をいうのが怖いのだろうか。本音を言って、こういう自分なんだと知られて、嫌われるのが怖いと思っているのだろうか。
自分の愛情は、そんなにやわなものじゃない。どれだけ彼を想っているのか、彼はきっとわかっていない。

レイアはアルヴィンの小指と自らの小指を絡ませる。
あなたの傍にいるのは、これから先もずっと、自分なんだよと、運命を象徴させるかのように。


「アルヴィン君、わたし、あなたの事、凄く好きだよ、大好きだよ、わかってないかもしれないけど」

「なんだよ、ちゃんと知ってるって。だから俺達、付き合って…」

「わかってないよ、ねえ、ちゃんと受け入れてよ。わたしの気持ちをバカにしないで。そんなにヤワなものじゃないんだから」



絡みあった小指が熱い。
好きだから付き合っているのに、どうしてこんなに距離を感じるの。嫌だよ、淋しいよ、どんなことでも、わかりあいたいのに。知りたいのに。


「サンキュ、な」


アルヴィンの小指に力が込められた。力強くて折れてしまいそうだ。
もう少しだけ待ってと彼は言った。
こいつはこんな自分を好いていてくれているのかと、認めざるを得なかった。たくさんの裏切りや嘘を重ねて、今だって彼女に壁を作って。
好きだけど苦手だったと言ったら、どんな顔をする?傷ついたりしないだろうか。
レイアの思考も性格にも、ずっと憧れていた。レイアみたいになりたかった。そうしたら、もう少しまともな人間になれたのかもしれないし、彼女と対等に向き合えていたのかもしれないのに。
やっぱり怖い。けれど強烈に彼女に引き込まれる。欲しくてたまらない。
小指を離そうとしないのが、その象徴である。


「わたしは、ずっと傍にいるよ」

「本当か」

「ほら、やっぱり、信じてくれてないじゃん」

「冗談冗談。わかってるって」

「ごまかしたって無駄なんだからね」




おたくは、世界で一番特別な人だけど、世界で一番苦手な人だ、とアルヴィンは思った。
これまでの自分が破壊されてしまう。けど、どこかでそれを望んでいる。

こいつは、俺を裏切らない。それくらい、わかっているんだ。




「俺だって、好きだよ」

「それくらい、わかってるよ、わかってないのはアルヴィン君の方」

「……ごめんな」




真剣にぶつからなきゃ、この人に気持ちがわかってもらえないし、伝わらない。うざいと思われることを覚悟し、決死の行動でもあった。
少しは彼に届いただろうか。
たった少しでも、いいから。
そんな彼女の想いは、彼へとちゃんと届いていた。



「わたしは他の人と違うよ」

「違うな、おたくは、俺の運命の人だから」

「からかってる?」

「んなわけないだろ、本当、レイアは俺の運命の人なんだよ」
















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タイトル・Evergreen


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