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ガラスのうさぎ





わたしって、意地悪なの?

だって、意地悪なのは……アルヴィン君の方じゃない。


レイアは、ぷくりとほっぺたを膨らましている。

わたしが…悪いのかもしれない。しつこくしすぎちゃったのかも…しれない。


だけど、もう少し…優しくしてくれても、いいと思うんだけど。



わたしにだけ、彼は冷たい。
普通、逆だよね?付き合ってるならさ、好きな人には優しくしてくれるものだよね?

あ……そっか。わたし、嫌われちゃったのかもしれないな。
だから、冷たいんだ。



「……おい」

「な、なに?」

「おたくさ、最近変じゃね。俺に対して」



アルヴィンは不機嫌そうに、レイアに言う。
無意識に、レイアはアルヴィンを避けるようになっていた。

彼に嫌われたんだなって、思うようになってから。



「………気のせい、じゃない?」



視線もどこを向ければいいのか、わからないし、自分でも妙な動きをしてるなと、感じるレイア。

(どうしよう、どうすればいいかな、絶対に変に思われたよね)





「……どこが」



当然、アルヴィンは怒りを露わにし、レイアに詰め寄ろうとした。
だが、レイアが腕で顔を隠し、ガードする姿勢をとった。
それが彼には相当なダメージを与えていたようで、詰め寄るのをやめてしまった。
拒絶された。そこから先に行く勇気は、彼にはない。



「……っ、だって……アルヴィン君、全然優しくしてくれないし、そればかりか、今までより…かなり…冷たいし…だから……!」



最後は、涙目になってしまい、彼女は走って去っていった。


(………バカ。バカバカ!!!わたしの………バカ。)


こういう所が……子供なんだよね。
欲しいものを与えられないで、駄々をこねているみたいだ。


アルヴィン君、怒ってたな。
そうだよね……怒るのも無理ないか。
無視しちゃったし、逃げ出しちゃったし。
これは、してはいけないこと……なんだ。
これは、その人がいないことを示すような……行為だから。

わたしは…その一つをやってしまった。

耐えられなかった。
付き合う前の方が、まだ、優しかったから。

だから、甘えたくても…できなかった。
振り払われることが恐いと思っていたから。


怯えてしまったら、もう好きだなんて言えないよね。


わたし、どうしたら……いい?



「おい!!待てよ!レイア!」



レイアを追い、アルヴィンは、後ろから追い掛けてきていた。
拒絶されたことが辛く、またどうしてそうしたのか理由はわからない。
その理由がわからないまま、このままにするわけにはいかない。

それでも、レイアは走ることを止めない。



「この……ふざけんなよ!」

「きゃっ………!!」



アルヴィンはレイアの腕を掴むと、そのまま草の上にレイアを押し倒した。
レイアはまだ顔を隠したままだ。
それでも、もう彼女を逃がすわけにはいかない。
レイアに嫌われることが、彼には一番あってはならないことだから。


「っ………く………」

「………泣くな」

「……ふ……ぇ………」

「………泣くな!!」


とうとうアルヴィンは、必死に顔を隠していたレイアの腕をどかせ、顔を覗き込む。
彼女は目に涙をいっぱい溜め込み、それはぽたぽたと滴り落ち続けた。



「………ご……め………んなさい………」

「………………」

「……わたし、恐くて……。だって、冷たかったし、態度もそっけなかったし、アルヴィンが……わたしを嫌いになったんじゃないかって思って……だから…っ…」



そのまま、彼は彼女の口を塞いだ。
言葉をださせないように、彼女が泣いたりしないように。

目をぱちくりさせたレイアだったが、アルヴィンの背中に手を廻し、応じる。

いつの間に自分はそのような態度をとってしまっていたんだろうか。
まったくもって身に覚えがアルヴィンにはなかった。

レイアの前では、ちゃんとしていたいという自分の気持ちが態度に出ていてしまった可能性は考えられるが。
そうだとしたら、それは盲点である。
ちゃんとしたら冷たいと思われてしまうなんて、それも情けなく感じた。

アルヴィンはレイアの瞼にも唇を落とした。
涙を止めるおまじないだ、と。そう言ったらレイアは笑った。

ようやく、笑ってくれた。



「俺が好きなのは、レイアだ」


「………うん」


「それから……俺は、その……どう接したらいいか……わかんねえんだよ。だから、一々泣いたりすんな」

「…………はい」




どうしてだろう。さっきまでの不安な気持ちが、一気に吹き飛んでいく。

きっと……聞けたから。
彼の気持ちを。



「おたくに拒絶されるわ、逃げられるわ、少しは俺の気持ちも考えろ」

「ごめん。そうだね、アルヴィンはガラスのうさぎさんだったもんね」

「は?」

「なんでもなーい」


あの必死になっているアルヴィンの顔が、レイアから離れなかった。














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