「よ!誕生日おめでとう」
「は?」

一緒の大学に通っている花井が一々俺の科に来てそんなことを言った。

いつ誰が誕生日だって?


俺はジトリと席に近づいてくる花井を見た。

「んなっ……なんで睨むんだよ」

「素だ…別に睨んでねえ」
花井は相変わらず嫌な奴だなお前は。などと、失礼極まりないことを言ってくる。そんなことを言いにきたのかコイツは。

「……お前今日誕生日だろ?」

「はぁ?」

誕生日……俺?

俺は携帯を取り出し日付を見る。


12月11日…俺の誕生日がそこには記されていた。


「知らなかったとか?」

花井は眼鏡を外しながら問う。

知らなかった…全然。


三橋から何も言われてないってことは…
三橋の奴も…忘れてる?


「ふー……ヘコムなあ」


俺は深いため息をつき、カバンを持ち、立ち上がった。

「もしかして、今日の飲み…俺の誕生日の?」

そう言うと花井が、お前マジで気が付かなかったのかなどと呆れた顔で言う。


「ふーん……」
「ふーんって……ひでーなあお前。」

「ああ…ちげーって、ありがとうな。今日は頼むよ。…はあ。じゃ…バイトいってくる」


花井は俺が元気が無いことを勘違いしたらしく、バイト辛いなら話せよ。と、お門違いな慰めの言葉をかけ、俺の背を押した。

「まー、飲もうぜ阿部」

「あー…ああ。……5時半にいつものとこだろ?」

俺はそう言い、ふらりと教室から出て、バイトに向かった。


木枯らしが身に染みて、何だか本気で泣きそうになった。




「よー!あべー!!遅かったなー!?」

少しばかり遅れて、居酒屋のドアを開けば、開口一番田島の声がふってきた。

「なんだよ田島…主役がくる前に…酔い潰れてんなよ」

もうすでに何杯か飲んだのであろう、空のグラスが田島の前だけ目立つ。

「あー、阿部だー久しぶりだなー」

こちらも半分酔い潰れている水谷。

水谷はシカトして、集まったメンツを見る。

花井に田島、水谷、栄口。
あとの何人かは県外の大学やら就職組であまり会えない。今日は後から何人か来るらしい。

「あれー?三橋は??」

田島が俺に今、触れてほしくない話題を投げ掛ける。
「…は?」

ここで、ふと、おかしなことに気が付く。


「あれ…三橋は?」

俺が聞き返すと、田島が、俺が聞きてーよ!と笑って答えた。

「え……栄口…三橋は?」
チューハイをちょびちょび飲んでいた栄口に向けると、きょとんとした顔で、お前ら一緒に住んでんじゃん。オレが知るわけ無いよ。と言われた。


おいおい。ちょっと待てよ?


「今日、三橋と約束してなかったのか?田島と栄口。」

俺が座敷に乗り上げながら、二人に聞く。

二人はというと、顔を見合わせ、首を横に振った。

「さっき、三橋に二人でやらなくていーの?ってメールしたけど、いいんだよ。って返ってきたから…つか、今日三橋も一緒だとばっかり」

栄口の言葉を聞き、電話をかける。


『お客さまがおかけになった……』

「くっそ…電源切ってやがる!」


俺がそう叫ぶと、4人がどうしたんだと聞いてきた。
「ワリい……俺抜きでやってくれ」

4人の唖然とした顔に、軽く謝罪の手をあげ、俺は居酒屋を飛び出した。


外は真っ暗で、自分のはく息だけが白い。

原付に乗り、ここから20分強のアパートまでの道のりを呪う。

三橋が、今はきだす白い息のように、この寒空の中消えていきそうで…俺は原付のスピードをあげた。


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