12月11日はオレにとって大切な日。
自分の誕生日やクリスマスよりも…大イベントって言っても可笑しくない。

だって、オレの大好きな人。
オレの大切な人。オレの恋人…

阿部くんの誕生日なんだ。






[幸せになろうよ]






「…ん」

二人で寝るには少し狭いシングルベッド。
オレの首筋にかかる阿部くんの寝息。

後ろから大きな腕に包まれながら寝てる。

昨日の名残が残る腰を、労るように絡ませている阿部くんの腕がくすぐったい。

まだまだこの温もりを感じて微睡んでいたいんだけど。

やっぱり今日は大切な日だから。
いろいろ準備をしなきゃ…。


阿部くんを起こさないように、腰に回っていた手を退けてベッドからでようとした。

「……(オレ…裸だったんだ)」

手早く床に落ちてた服を引っ掴んで着た。

なんか大きいと思ったら、阿部くんのシャツで…丁度下半身も隠れる優れモノだとゆうことに気が付いた。

でも一応、パンツを履いて台所に急いだ。


今日は学校お休み。
でも阿部くんは今日は朝から大学。

バイトに行って、帰ってくるのは5時くらいって言ってた。

オレは今日は、バイトもお休み(にしたんだけど。)





オレ達は高校卒業して1年目に再会した。

高校卒業の時、二人ともまだ付き合ってなかったから、そのまま別れた。

でもオレも阿部くんも忘れられなくて、偶然、再会した。


それが偶然かは分からないけど…。


オレはそんなことを考えながら、阿部くんの好きな和食の朝食に取り掛かる。


阿部くんに同棲しよう?って言われたときはビックリした。
でもそれ以上にすっごく嬉しくて、泣きながらずっと頷いてたっけ。


同棲し始めて半年とちょっと。
同棲して初めての阿部くんの誕生日。


「がんばる…ぞ!」

「頑張るなら、魚焦がすなよ」

「うひゃぁあああっ!?」
後ろから腰を抱かれ、ぴったりと横に付いて火を消す阿部くんに物凄く驚いて、包丁を落としそうになった。

「おっおっおきた の?」
「起きちゃダメなの?」

「そ なことない…よ」

「ふーん、まぁいいや……三橋…おはよう」

腰をギュッと掴まれてグイッと引き寄せられて、鼻の頭にキスされた。

オレが声を出せないでいたら、今度は味噌汁が吹きこぼれるぞ?と笑って火を消してくれた。


「ありが…と」

「つーかさ…お前……なんつー格好………ま、いーけど」

阿部くんは言葉を濁して、服を着替えてくると言っていってしまった。


「…?」

オレはご飯をついで魚とかをテーブルに置いた。

ああ…醤油が遠い……阿部くんのとこに置かなきゃ。
「うんしょ……もっ…少し」

テーブルの端から端に手を伸ばすオレ。
取りにいけばいいのに…物臭がこんなところで…。



「なぁ、それって…やっぱねらってんの?」


後ろを振り向くと阿部くんが壁にもたれて、オレの足らへんを指差してる。

オレはまた何かヘマをしたんじゃないかとドキドキしながら、自分の後ろを見る。

「…………?……べつに 普通…だよ?」

「ああ…そう……普通に…誘ってんだ」

「えっ?!…ちがっ…」

ああ!分かった。

オレは顔を真っ赤にして、クルリと阿部くんの方に向き直った。
そして、阿部くんの服の裾を引っ張った。


「……パンツ…はいてるもん…」

「…誘ってるように見えた」

阿部くんはニヤリと笑って席に着いた。

「さそっ…て…な い…です」

語尾を強めながら、オレもやっと取れた醤油を阿部くんに渡し、席に着いた。


「オレ…今日休もうかな…」

阿部くんがボソリと呟いたのをオレは聞き逃さない。
「ほっ本当!?」

一緒にお買物できるかもっ!
そう思ったのも束の間…。

「う・そ」

味噌汁を飲み干した阿部くんは、してやったりな顔でオレを見据える。
ひっひどい。


「残念だった?」

「そっ…そんなこと…ないで す!」


阿部くんは心底楽しそうに笑って席を立った。


「んーじゃ、大学行ってくるな…三橋は今日全部休みだろ?」


「うん…あっ!阿部く ん…あの…今日、」

今日の夜一緒にパーティーしようって…誘わなきゃ!

「あ…今日、花井達が飯食おうって。お前も来いよって」

え…今なん て。


「え…あ の」

どうしよう…嫌…なんて言えな い。

阿部くんには阿部くんの…付き合いが…ある。


「ん?…今日なんかあったっけ?」

阿部くんは今日何の日か…分かってるのかな…分かってる…よね。
自分の…誕生日だもん。


「ううん…今日…オレ、田島くんと栄口くんと…買い物…だから…………楽しんで きてね?」

オレはニコリと笑いながら言った。上手く…笑えていますように。

田島くんと栄口くん…ごめんね…。

「…?ああ…。早めに帰ってくるから…」


阿部くんは荷物を持って、オレの頭を撫でて…行ってしまった。


無償に寂しく、虚しくなって…泣いてしまった。

阿部くんは…オレが早く誘っていたら、一緒にいてくれたかな…。
それとも、オレだけが…誕生日一緒にいたいって思ってたのかな。

なんか…よくわかんなくなって、頭の中がグチャグチャで…涙が止まらなかった。



「ふ…ぇ………あれ…今…何時?」

泣き疲れて、寝ちゃったらしい。
焦って時計を見ると12時をさしててビックリした。


ご飯……は、いいや。
洗濯して掃除して…プレゼント買いに…………


「…………もう…いっか」
そう呟いて、目をこすろうと、ふと左手を見ると…阿部くんから誕生日プレゼントにもらった指輪が光ってた。




『安物だけどさ…』

そう言って恥ずかしそうに笑った阿部くん。

『お前が…中性的な名前でよかった』

そう言って指輪の刻印を見せ、照れたように目を逸らす阿部くん。

『廉が…好きだ』

初めて名前で呼んでくれて、耳まで真っ赤にしてうずくまって半泣きな阿部くん。

なんで気が付かなかったんだろ。


自分がどうしたいかが大切だってこと。

こんなオレなんかを幸せな気持ちにしてくれたのは…紛れもなく阿部くんだ。



「よしっ!」



そう思って気合いを入れたら、お腹がすいてきた。
腹拵えをしたら、買い物にいこう。

阿部くんに喜んでもらえるように。自分なりに。


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