「38度9分……夏風邪かしら…熱射病?」
お母さんの声が響く。

あれ?オレいつ…家まで帰ったんだろう。

目を開けると、自分の部屋の天井。
少し横を向くと、正装した母さんの心配そうな顔。

「病院行かなきゃね…」
オレは小さく首を振った。
たしか、今日から母さんも父さんも仕事で出張だって…言ってたのを思い出した。

「だめよ…風邪治らないわ…仕事休むわ…」
「…ね…てたら…大丈夫だ…から…早く…し…ごと」
母さんは大事な仕事だって、言ってた。
それに…今は一人にして欲しい。


「は…やくっ!…オレは…大丈夫っ だ!」

母さんにそう言って、枕に顔を埋めた。

「…つらかったりしたら、すぐ電話するのよ?水分…ちゃんと取るのよ?お粥作っとくから…明日には帰るからね」
母さんはそう言ってオレの部屋から出ていった。
オレは天井を向き、ため息をついた。

クーラーを付けているはずなのに、熱い。
窓を閉めているはずなのに、蝉時雨が煩い。

この空間に、自分の隣にいないだけで苦しい。


熱なんか…出してる場合じゃないのに。

瞼を閉じたら、君の傷ついた顔が浮かんでくる…。

謝らなくちゃ…。


でも、立とうとしても身体に力が入らない。

「…あべ…くん…あべくん…」
瞼を閉じても、涙も出ない…
阿部くんの前では…止めようとしても次から次へと溢れてくるのに…

どうして…。

自分でも自分が分からない…。


ひゃりりん ひゃりりん

隣にいつの間にか置いていた、携帯。


取るのが恐くて、取ってしまったらいけないようで…
三橋はコールが切れた携帯の電源を、ディスプレイを見ず消した。


瞼を閉じたら、傷ついた阿部くんの顔…。
それでも、今は阿部くんに会いたくて会いたくて…

傷ついた君の顔でも、縋っていたかった。

瞼を閉じた三橋から涙が溢れた。




冷たい…
額に何かおかれた。
頭を撫でられる…
すごく気持ち良くて、すごく懐かしい感じがして目を閉じているのに…目頭が熱くなって涙がでる。
頭を撫でていた手が一瞬止まったけど…すぐに再開された。
優しく涙を拭われた。

この温かい手は誰…
この優しい手は誰…


目を開けるのが恐い。でも開けたい。

だって、ありえないけど、きっと夢なんだろうけど…会いたかった人がいる。

夢でいいから、君に会いたいよ。


「阿部…くん…」


三橋が目を開けた先には、優しい顔の阿部がいた。

目が合うとすぐ逸らされた。


「大丈夫か…三橋…」
「阿部くん…」
「なに」
「阿部くん…」
「だから…なに」
阿部は逸らしていた目をやっと三橋に向けた。

「阿部くん…だぁっ」
三橋は阿部に抱きついた。阿部はバランスを崩しながらも、三橋を受けとめた。

「…三橋…熱いよお前……」
「…夏風邪は馬鹿がひくんだぞ」
「俺の電話にはちゃんとでろよ…」

阿部くんの低い声が耳に心地よくて、うんうんって頷くことしかできなかった。
「三橋……ごめんな」
うんうん…ん?

オレは阿部くんを見つめた。
「なんで…阿部くんが……謝るの」

謝らなくちゃいけないのはオレなのに。
きっと、阿部くんに嫌な思いとかさせちゃったんだ。だから…謝らなくちゃいけないのはオレ…。

「お前がさ…叶と電話で話すのがスゲー嬉しそうで…その……嫉妬した」
そう言った阿部くんの顔は、強く抱き締められて見ることができなかった。
「阿部くん…阿部くん……夢じゃない よね…阿部くん…オレと一緒に…いる よね」

三橋は阿部の背中に腕を回し、ギュッとしがみついた。

「ああ…いるよ…俺はお前と一緒に…」

「うん…阿部くん…オレ阿部くんがいい…よ……阿部くん大好き」

オレは流れる涙をそのままに阿部くんに抱きついた。
「っ……泣くなよ…馬鹿やろ」
頭を撫でる阿部くんの声も涙声…。

「阿部くん…阿部くんも言ってくれたら…風邪治るよ」

阿部くんを見たら、やっぱり涙目、ビックリした顔…。

「…………廉、好きだよ」
オレも驚いて、ひゃっとか、わっとか…叫ぼうと思ったけど…できなかった。

阿部くんの唇にその奇声が呑み込まれたから。



耳に響くは蝉時雨。
心に響く、君の声。



Fin...



>>素敵企画『アベミハ甲子園』様に投稿させて頂いた産物。
訳が分からなくなりました。(涙)

竜弥






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