漆黒の髪。漆黒の瞳。
自分には無いものを持っていて、おまけに格好いいときた。
そんな彼に…女性がいないなんて…変な話だと思ったんだ。
「Hey!幸村っ!待ちやがれっ!!」
「ついてこないで下されっ!」
栗色の尻尾毛をはためかせながら一年のクラスの前を全力疾走で走り去るのは、1年A組の真田幸村だ。
その後ろを、これまた全力疾走で追い掛けるのは、漆黒の髪と隻眼、2年D組の伊達政宗だ。
「ゆきむらぁっ!てめっ!止まれ!stop!」
「俺のことは放っておいて下されー!」
「んなことできっかよ!」
政宗は漸く、人通りのあまり無い理科棟の廊下で幸村の腕を掴む。
「こいっ!」
政宗は幸村の腕をギリリと掴みながら、近くにあった理科準備室に幸村を投げ飛ばす。
幸村は尻餅を付き、顔を顰める。
「いっ…」
政宗はカチリと音をたて鍵を後ろ手に閉め、幸村を睨む。
「どーいった料簡だコラ…」
「……なにがでござるか…」
幸村は政宗から目を逸らす。
それが早くも頭にきたのか、政宗は幸村ににじり寄る。
「こっ…来ないで下され!……あ」
尻餅を付いたまま後ろに後退していた幸村は、すぐに壁に追いやられた。
透かさず政宗が幸村の顔の両端の壁に、幸村を囲うように手を強く付いた。
その大きな音にビクリと肩を震わせたが、すぐに目の前にある政宗を弱々しくだが睨み付ける。
「なんで…俺から逃げる…」
「逃げてなどおりませぬ!」
政宗が低く言うとすぐに幸村が反論した。
しかし、すぐに政宗が叫ぶ。
「黙れ!てめぇの嘘はすぐ分かる!俺はお前の何だと思ってんだ!!」
「じゃあ!なんなんで御座るか?!…俺は……俺は…政宗殿の……何なのですか?」
幸村は瞳からポロリと涙を流し、それから堰を切ったように涙が溢れだした。
それに驚いたのは政宗の方だった。
政宗は放課後、幸村をクラスに迎えに行った。
そしたら、幸村が泣きそうな顔で自分を見、全力疾走で走っていったのだ。
政宗は恋人の不審な行動を問い詰めるべく、幸村を追った。
だが、幸村は自分からどうも逃げたいらしい。
そしてやっと捕まえたら、今度は泣かれてしまったということだ。
「なに言ってんだ…幸村……loverだろ?……恋人同士…」
そう政宗が言うと、幸村は赤い瞳を見開く。
「しかしっ……昨日……女性に告白されたと…元親殿からお聞きいたしました…」
「(元親の野郎…絞めてやる…)告白はされた…でも断った……付き合ってる奴がいるからってな…」
お前のことだぜ。
そう政宗が言うと幸村は顔を真っ赤に染め、焦り始めた。
「しかしっ…俺は…男です」
幸村のその言葉に、呆気にとられながら、何を今更と呟いた。
(やるこたぁ…全部終わってんだろうが…)
「つーと……お前は付き合ってもいない俺とずっとセックスやってたって思ってたのか!?」
そういうのはセフレつーんだぞ?!
そう政宗が叫ぶ。
「まっ政宗殿!破廉恥で御座りまする!」
「んなこたぁどうだっていい!それより!!お前は付き合ってもいない奴に脚開いてたっつーのか?!」
「ちがっ……俺は!俺は……政宗殿が…好きだから…」
最後は消えるように幸村が言う。
一瞬シンとなったが、すぐに政宗が動いた。
「バーカ…ほんっと…てめぇは馬鹿だ…大馬鹿だよ…」
政宗は幸村を抱き締め耳元で囁く。
「However,you are so dear(しかし、君はこんなにも愛しい)……」
「……政宗殿?」
「…お前…高一は絶対分かるレベルだぞ?」
政宗がくつくつと笑い、幸村の額、瞼、頬、唇と柔らかくキスをする。
そして、幸村と見つめ合い言う。
「俺はお前が好きだ…お前以外は興味なんてねぇ…俺と付き合ってくれ…」
まぁ、順番はかなーり狂ったけどな。
そう言って、バツが悪そうに苦笑した。
「……男にしか興味が無いのは如何なものかと思われまする……でも…俺も政宗殿しかいないで御座ります!」
幸村はそう言って政宗に抱きついた。
政宗は、男にしか興味が無いんじゃなくて、お前にしか興味が無いんだ!と言いながら嬉しそうに幸村を抱き締めた。
>>初の政幸。