黄金(こがね)色のフワフワした耳を頭を支えたままの指先で少し触れる。
すよすよ眠るこの幼狐を横抱きしながら視界の端で時たま見る。
首元には、鈍く光る六紋銭。
ああやはり、間違いではないと思う。

アレは数年前…




「っ…くそ……何かもう自暴自棄」

ヘマをして翼を折るという失態を犯した。もう何もかもやる気が出なくて鴉の姿でそのまま急降下。
このまま頭かち割れて死ねばいいのに。なんて物騒なこと考えて落ちた所は柔らかい温もりの上。

見上げれば、オッサン。自分の下を見れば生後数ヶ月の赤ん坊。

そこで意識はプッツリ。


気がついたら、隣に瞳のデカイ赤ん坊。よく見たら、耳がついてる。妖狐らしい。冷や汗。翼には包帯。
逃げられない。そう思った矢先横の赤ん坊が可愛く笑った。
ホッとしたのも束の間、翼をもぎ取られんばかりの強さでひっ掴まれた。
鴉よろしくカーカー騒ぐとバタバタと走ってくる人影。

「こらこら!弁っ…鴉くんを虐めちゃダメでちゅよー」

先程の男だと理解した頃には、俺は翼を掴まれたまま宙に浮く。ああ、傷が…開く。

「あらー、弁は気に入っちゃったみたいねぇ…やっぱり妖(あやかし)は妖に惹かれるのかねぇ」

俺はその言葉を聞き人形(じんけい)になった。翼は掴まれたまま。

「あんた等何者なんだい」
「お、カッコいいねぇ兄さん…お前さん、甲斐の虎に遣えてる鴉天狗でしょ」

目の前の男はニッと笑った。

「俺は、お館様の知り合いでね…まぁ自分は妖ではないんだが」

じゃあ、この狐は何だと未だ俺の翼から手を離さない妖狐を見やると、少し笑いながら答えられた。

「俺の爺さんが大妖で、俺の奥さん…この子の母さんが妖狐だったんだ」

この子を産んで死んでしまったけれど、と続けられ男を見ると苦笑していた。
男は翼から幼狐を離し、俺の目の前に腰かけてきた。
「お前を助けたのは此方の勝手なんだが…勝手序でに聞いて欲しい」

俺は今更逃げる気もなくて、めんどくさ気にドカリと座った。
妻が死んで、自分はまたすぐに新しい妻を貰わなければならない。乗り気な話ではないがそうせざるおえないらしい。
人間とは厄介なものだと思った。
それと、自分は数年後には死ぬと言うことも告げられた。そのあとの幼狐が心配だと…


「…そんな話を俺様にしてどうしたいわけ?」

そう言うと男は少し笑って幼狐を渡してきた。

「鴉天狗にとって狐の妖気は喉から手が出るほどの代物だと聞く。この子に無理を強いないならどうしてくれても文句は言えない。が、その代わり、育ててやって欲しい。」

勿論、今すぐではなくて俺が死んだ後だと付け加えた。

「あんた、鴉に餓鬼を売るのかい?」

それに鴉は自分の好みには煩い。好みじゃない妖なんて惨たらしい殺し方をするかもしれない。鴉は狡賢い生き物だと。
そう言うと、男はいきなり笑い始め俺の肩をバシバシ叩き始めた。
何が起こっているか分からずポカンとしていると、更に豪快に笑い、ふざけたことを言い始めた。

「俺と、前妻の子だぞ、妻は天然で美人で可愛くて最高の女だった…それに、位も高い妖狐だった……コイツは美人で大物になるさ」
いや、そう言うことを言ってるんじゃなくて。

「コイツ…男でしょ?」
「そうだが…、でもよく見てみろかわいいだろ!そこらの女より美人になるさ」
もう何だか話にならなくて胡座を掻いた上に横たわる幼狐の耳を手で触る。

「…さぁてね、アンタの子だからな…」
「なに言ってんだお前、若しくは凛々しい男の中の漢になる!…」
でも俺は美人がいいな…

何訳の分かんないこと言ってんだと狐を返そうとしたが、指を掴まれていて対応に困った。

「もう、お前にしか頼めそうな奴はいないんだ…俺はこの子を幸せにさせてやれない…俺は死ぬからな。だから…お前に頼むんだ」
「んな…見ず知らずの妖にっ…」
「見ず知らずの妖だからいいんだ…」

そんなこと言って笑った彼の首元には、六紋銭の首飾りが光っていた。




>>軽い御父様っ!爆
明るいけど頭のキレる愛妻家な御父様にしたかったんです。←
趣味に走りすぎ


#090402

竜弥

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -