何だか朝から人里の方の入口から人間の気配がして気分が悪かった。でも、直ぐにそれは消えて、ずっと感じるこの小さな小さな妖気。まだ幼いのだろう。きっと、捨てられたんだな。

「猿飛…狐が迷い込んだみたいだが」

才蔵が塒(ねぐら)の縁に凭れて此方を見やるので、長って呼べと近くにあった石をぶち投げてやった。そしたら、避けやがって変わりに後ろにいた馬鹿に当たった。

「いってー!いてぇ!ふざけんな猿っ!!」

朝っぱらから下品な橙色の髪がムカつくからもう一個、六郎に投げてやった。
そしたら、塒の下に急降下、なんか騒いでるけど無視。つか、鴉なのにあの身のこなしは屑。
俺は立ち上がって軽く伸びをして、才蔵の肩を叩いて言う。

「いーよ…別にほっときな…俺様が行く」

そしたら酷く吃驚したような可笑しな顔された。
なに、言いたいことあるの?って言おうとしたら、遥か向こうから急降下してくる馬鹿二匹目。
才蔵と俺が軽く避けたら鴉は俺の塒に突っ込みやがった。後でぶちのめす。

「いったたた……てかっ!さっちゃんが行くの?!」
「何…文句あるの?」

後ろ振り返って睨むと、引っくり返ったままニコニコ笑う人形(じんけい)の小介。俺は、そこ片付けといてよ。と言って、漆黒の翼を開いて塒を後にした。

何だか懐かしいようなこの妖気に少しだけ気分が善かった。何で懐かしいんだろうか…。
よく分かんないから、自分で確かめたかっただけ。
ただ、それだけ。
あと、もしかしたら、な、妖気だったから。



可笑しいな…ここら辺だと思ったのに。
俺が妖気を追えないなんて。辺りを見渡すけど妖気が分散されてる。
一人だよね…。

「ぎゃっ…わっわわわわっ!」

バッと上を向くと、小さな狐が降ってきた。
「えっ…ちょ…なっ、なんで上から降って…」
吃驚しつつも両手を広げて受け止める。そしたら、デカイフワフワの尻尾が顔を擦る。擽ったい。

「わわわ!申し訳ないでござるっ」

幼狐は俺の腕の中でクルリと回って、漸く目があった。齢は5歳ぐらい、丸い目に、フワフワの耳と尻尾。首元にかかるのは、六紋銭。
ああ、やっぱり。

「そっ某…食べ物を探していてっ…ごっごめんなさいでござる」

幼狐は未だに落ちたことに驚いたのか早口でそう捲し立てる。
俺は地面にゆっくり降ろしてやり、顔を覗き込んだ。
似ているかもしれない。

「いや、別に…つかアンタ…」
「ああ!鴉天狗殿でござるか?!初めましてでござる、某、べっ……幸村と申します」
「べ…?」
「いや、某…もとは弁丸という名でした、この間、父に貰ったのが幸村です」

俺は小さくそっか、と言って幼狐に手を差し出した。
「ほら、入口まで送ってってあげるからさ、ついてきなよ」

優しく言ったつもりだったのにな、モジモジして俯いたままの幼狐にまた声をかけた。

「何してんの?ほら、捕って食いやしないから…家に帰んな」
「…家…なんて…無いで…ござる…」

そう言っていきなりひんひん泣き始めた幼狐は俺の翼にガッシリと両手でしがみつき、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら引っ付いてきた。きっと虚勢を張っていたのだろう。
髪を優しく鋤いてやる。
ここで、やっと。彼が亡くなったことを俺は知った。
「ほら、顔をあげなよ……?」

そう言ったら何だかどんどん体重がかかってきた。何事かと思ったら…寝てる。
驚いたというか、呆れた。
俺は小さくフッと笑って幼狐を抱き上げて、翼を広げた。




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真田十勇士、皆、鴉天狗です。趣味に走ってスミマセン。
まだまだ色々でます!キチンとお館さまもでます!←
佐助とお父上の話も書きます。
なんだか頭がパーリィしてます!
あ、政宗もでます!幸村がもう少し大きくなったら。


#090401

竜弥


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