「ハイ、小十郎」
幸村から受け取ったコーヒーを飲むと身体が温まって、序でに頭もなんだか楽になった。
それでも、締め切りを考えるとコーヒーの温かさも一瞬に悪寒に変わってしまい、小十郎は深いため息をついた。
「……間に合いそうか?」
「……ああ…間に合わせるさ」
また無理しちゃって…。小十郎はすぐ無理するからいけないでござる。
幸村は小さく少し呆れた風に笑うと、真っ白の原稿用紙と睨めっこしている小十郎に言う。
「ねぇ、小十郎は……もう書かないのか?」
もう飽きたのか小十郎は顔を上げ、カフェオレをゆっくりと飲む幸村を見やる。
「は?……なにを」
「官能小説」
幸村は悪怯れるでもなく、いつもの様に破廉恥だと騒ぐでもなく、実にストレートにその言葉を口にした。
それに驚かされたのは紛れもなく、小十郎だった。
「な……なにを」
「知ってる……小十郎が昔、官能小説書いててそれが妙に売れちゃったことも」
固まる自分を余所に、実に楽しそうに言うこの子供を知らない。
(誰がこんな教育をっ!)
そんなことを焦った頭で考えるにも、この子を育ててきたのは紛れもなくこの自分だし、この横にいる子は自分の恋人であるのは確かだ。
小十郎はボサボサの頭をかき、ため息をつく。
「…触れちゃダメだった?」
幸村は眉を顰め心配そうに小十郎を覗き込む。
(ああ、やっぱり…幸村じゃないか)
小十郎は自嘲気味に笑い観念したようにペンを置き、手を顔の横にあげた。
「降参降参、今日は徹夜。…で、幸村は何が聞きてーんだ」
こうなったら聞きましょうよ、序でになんでも答えるさ。
「つっても、俺は一冊しかだしてない」
「なんで書いたの?」
幸村は飲み干したカップの淵をなぞりながら問う。
「金が無かったから」
小十郎は炬燵に足を深く突っ込み、後ろのソファにもたれかかった。
その動作を見た幸村から、オヤジみたいと言われ小さく反論の言葉を上げた。
「俺はもうオッサンだ。ま…そんな昔もあったんだ」
小十郎の言葉に納得できないのか、幸村は口を歪め考え込む。
(なにかいらない心配でもしてるのかね、コイツは。)
「女子高生とのイケナイ関係とか書いたら?」
「ばっ…」
考え込んでたと思ったらいきなり出てきた言葉に驚き、足を炬燵に強打させながら小十郎が上半身を起こし座り直した。
「実話はよく売れるでござる…この御時世。」
少し、いや、かなり機嫌悪そうに幸村が言う。
いい加減冗談じゃ済まなくなってきて小十郎は深くため息をついた。
「勘弁してくれよ……」
幸村はビクリと肩を震わせ、傷ついたように顔を歪ませた。
(泣きたいのはこっちだ…)
幸村の考えが読めない自分に心底いらつく。
大人気ない。
「小十郎の浮気者」
「……は」
涙を溜めたまま睨んでくる幸村の意図が全く分からない。
浮気…。
「だって、官能小説は…実話を書くんのだろう?」
「……………はははっ!」
幸村は小十郎が笑う意味が分からないと頬を膨らませ、炬燵から出ようとする。
それを小十郎が許すはず無く、腕を掴まれ座らされる。
どうせ子供だとかいうんでしょう。と、幸村が口を尖らせ抗議しようと顔を上げた瞬間。
小十郎の唇に塞がれた。
幸村は抵抗したが、それもすぐ忘れるかのように口腔を丹念に舐められた。
「……っはぁ………誤魔化した」
「ちげぇって…お前が可愛いことばっか言うからだ」
小十郎の言葉に顔を真っ赤に染め、破廉恥を連呼し始めた幸村に少し安堵する。
「誰に吹き込まれたかは知んねーが…そりゃ、嘘だ」
まあ、実話で書く奴もいるだろうが、俺のはフィクションだフィクション。
と、付け加えた。
ポカンと間抜けな顔するコイツも可愛いなんて思う俺は、変態通り越して犯罪モノだよ全く。
小十郎は幸村の顎を掬い耳元で囁く。
「俺はな…大事なもんは話に書かない主義だ。テメーのもんを人に知らせてやるほど、心は広くねぇ」
真っ赤に染まっている耳たぶを甘噛みし、止めの一言。
「恋人は尚更……誰かのオカズにされちゃ困るんでね。お前は俺のもんだ」
ノンフィクションで愛して
(愛してやろうじゃないの!)
※幸村の喋り方とか一人称を統一しました。080812
>>また性懲りもなく。小説家こじゅと女子高生ゆきです。
こじゅを犯罪者にしたいらしい。え
キャラが…。誰だよ状態ですね。
ちなみにこじゅが官能書いたのは幸村を養い初めてお金に困ってしまったからです。編集さんにすすめられたんです。
しかし、こじゅは後ろめたくて使わなかったとかなんとか。
編集さんは…奴でございます。(また出します。要望があれば…)
皆さんの反応が無いまま書いちゃいましたまた。
大丈夫かな。
あ、官能小説を教えたのは同じクラスの恋バカ様と独眼竜…。
どちらも幸村にゾッコンラブ。(古)
竜弥