「え?ふぁーすときす…でござりますか?」

家に帰ろうと身仕度をしていた幸村は、目の前の美人学級委員長のかすがに目を向けた。

「そ、幸村は初(うぶ)だから…あるのかと思ってな」

「………………あるには…あります」

幸村が頬を膨らませたので、かすがはそれ以上は聞かず意中の人、謙信先生の話を始めた。

幸村はかすがの話しを聞くでもなく、悶々と考え込みだした。


そうだ、アレはまだ小さかった頃…


あの、オヤジに騙されたのだ。





キスは好きだからの合図





変なことを思い出して無償にムシャクシャする。
きっとあやつは、帰ったら私のベッドで不精髭を生やしたまま眠っているのだろう。

アパートのドアを開けようとして、鍵が開いていたことに小さく舌打ちをしてバシリと玄関を開け入る。

香るのはやはり煙草の香り。
この匂いは嫌いではない、しかし今は別問題だ。よけいイライラする。

幸村は靴を脱ぎ、ブレザーとカバンをソファに投げつけ、寝室兼自分の部屋に走る。


案の定、自分のベッドの上にはだらしない格好で寝る男。
張り倒したくなると幸村は呟き、布団を剥ぎ取る。

「…さみぃ………んぁ?……なんだ…帰ってきたのか」

「帰ってきたのか、ではないっ!このニートがっ!」
幸村はそう叫び、目を擦り欠伸をし始めた男をグーで殴った。
もう、それは見事に。

「いてぇ!てめっ!大人になにしやがるっ!」

「ふざけるな馬鹿者!昼からグースカと寝よってからに!なにが大人だ!ニートっ!」

「俺はニートじゃねぇ!小説家だっ!」

そう意気込み叫んだが、すぐにまた幸村の鉄拳が飛んでくる。

しかし、大の大人が2回も女子高生に殴られては面目丸潰れだ。
男は、幸村の腕を掴み自分の胸の中に引き寄せた。



この男は、幸村の父親…ではなく。只の幼なじみだ。

幸村の両親が早くに他界し、誰も引き取り手がいなく、まだ小説家志望の若造だった片倉小十郎が周りの心配(心配するだけで自分達は何もしない親戚達)を押し切り幸村を引き取ったのだ。

今現在は小十郎が30歳で幸村が17歳。小十郎は幸村を引き取って数年で小説家として成功した。
今は、売れっ子小説家なのである。

今このように幸村のベッドに泥のように眠っていたのは、昨日が締切日だったからだ。

小十郎は小説を書く時は、幸村の傍で書くと決まっている。
小さな頃、幸村が一人になるのは嫌だと言ってからはずっと隣で書き続けていたので、今では幸村が近くにいないと書けなくなっているのだ。

幸村もそれを知ってか知らずか原稿の清書をやらせろと言っては、一緒にいる。だから、幸村の部屋とはなっているが、締切近くには二人の寝室ともなっているのだ。


小十郎はこの前、別の雑誌の連載が終わったばかりなので、これから数日間は寝溜めするかのように朝から夜まで眠っているのだ。



「なっなっ……なにすっ…離せぇ小十郎!」

幸村はジタバタと暴れたが、小十郎はいとも簡単に幸村を敷き布団に縫い付ける。

「…何をする気だ」

「…女っぽく育てたつもりだったのに……いつから…こんなに生意気になったんだ…」

小十郎は幸村の両腕を片手で頭上に縫い付け、もう片方の手で口を覆い泣き真似を始める。

「離せロリコン…」

「ばっ……どこでそんな言葉を……ったく」

「…スカートが皺になるから退いて」

幸村は頬を膨らませ小十郎を下から睨み付ける。

(そんな可愛い顔で言われても…弱った)

小十郎は幸村の額、瞼、頬と小さくキスを落としていく。

幸村は見る見る内に真っ赤になり、破廉恥ロリコンと小さく呟いた。


「失礼だな……スカート皺になるの嫌なんだよな……脱ぐか?」

小十郎がニコリと言うと、すぐに幸村の蹴が小十郎の鳩尾にヒットした。


「っ………」

「エロオヤジ!破廉恥っ!キス魔ぁ!」

「な…キス魔?」

いつもの罵声には無い物に驚き、ベッドに正座している幸村を腹を押さえながら見る。

「……小さい頃…騙されたの思いだした」

小十郎は思いだしたのか、バツが悪そうに頭を掻いた。

「だから…アレは」

「知ってる……だからキス魔」

「あー……そうだな…」

小十郎は嫌だったか?と幸村に近付きながら言う。

「……嫌じゃなかった自分が…嫌なだけ」

幸村は小十郎の胸に寄り添い、大きな背に腕を回す。
「お前に、なんで朝と夜にキスするのかって聞かれたときは…心臓止まるかと思ったよ…」

小十郎は喉の奥でくつりと笑った。

「……そしたらキス以上のことした…」

「……すみませんでした」

小十郎が本気で謝るから幸村は、声を出して笑い、ギュッと抱きついた。

「もう、時効…」

幸村はそう言い、煙草臭い小十郎の唇にキスをした。
「おまっ……」

驚いた小十郎は口を開き、幸村を見つめる。

「不精髭……剃らないと…こっから先、なんもしない…」

そう言うと、いそいそと髭剃を探し始めた小十郎に幸村はくすりと小さく微笑んだ。



(不精髭さえも愛しい)






>>初小十郎幸…
な ん だ こ るぁぁああっ!
キャラ激しく崩壊状態。
女幸村……口悪っ!
すみませんでした。本気で。
小説家小十郎×女子高生幸村。
どうしよう。趣味に走りすぎた自己満ですみません。
また出会いとか、初…チョメチョメ(言い方古い)書いちゃいそうで恐ろしいです。

皆様の反応が恐いです。すみませんでした!


竜弥


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -