「弁丸様?…弁丸さま!もう夕の刻ですよ?帰りましょう」
佐助は木の幹に座り、夕日を見つめていた弁丸を下から呼んだ。
また、そんなところに上られて、またおっこちてもしりませんよ?
と小言も忘れずに。
「いやだ!まだ烏が鳴いていないではないかっ」
弁丸はそう叫び外方を向いた。
また、屁理屈を…と佐助はため息をつき烏笛を鳴らした。
佐助と弁丸の頭上に黒嘸が旋回し、一声カァと鳴いた。
「ほら鳴いた…帰りましょ?」
佐助はニッコリと笑い、弁丸に両腕を広げ、降りてくるように諭した。
「ズルイではないか!黒嘸もだぞっ!」
ぷくりと頬を膨らませた弁丸に黒嘸は弱々しくカァと鳴き、帰っていった。
あいつも大概弁丸様に弱いよなと、自嘲気味に笑い佐助は言った。
「早く帰らないと…夕餉に間に合いませんよ?」
「それは大変だ…佐助!そこに居れ」
「はいはい…ほら、」
佐助は弁丸が木の幹から飛び降りたのを優しく受けとめた。
「さすが佐助だ!」
「ありがとうございますっと、」
佐助は弁丸を抱き上げたまま帰路を急ぐ。
「こっこら!降ろせ佐助っ!」
「えー駄目ですよ…弁丸様すぐどっかに行くでしょー?」
それを聞いて弁丸がさらにジタバタと暴れだし、佐助は顔面を殴られたことにより弁丸を離した。
「ひっでー…ちょっと前まではそんなことなかったのに…」
「弁丸は一人で…歩けるのだぞ?!」
「はいはい、分かりましたよっと…」
じゃ、手でも繋いで帰りましょうか。
と、弁丸の小さな手を握り歩きだした。
×××××
「弁丸様…眠いんでしょ…」
「…そんなことはない…」
嘘ばっかり、そう弁丸に分からないようにくつりと笑い、弁丸の前に腰を屈めた。
「……?」
「おぶってあげますから…遊び疲れたんでしょ…」
最初は渋っていたが、目蓋が重いのか目を擦りながら佐助の背にひっついた。
「はいいきますよー」
佐助はゆっくりゆっくりと歩きだし、久しぶりに感じる心地よい重さに笑みを浮かべた。
暫らく歩いていたら、後ろから心地よい寝息が聞こえてきて、佐助は小さく鼻歌を刻んだ。
烏なぜ鳴くの…烏の勝手でしょう……
肩も背中も軽くなって
(やっぱり少し淋しい気がするから…時には重さを感じさせて)
>>佐弁ですか?黒嘸弁ですか(違)
佐弁です一応。
竜弥