もう少しで年が明ける。
近所の寺から聞こえる、除夜の鐘が鼓膜を心地よく揺らす。
「さすけ…さすけぇ」
台所に立ち二人分の年越し蕎麦の準備をしていたら、ててて、とか、とてとて、とかいう足音をさせ旦那が俺のところまでくる。
(可愛いってもんじゃないよ、)
「なぁに?…もうちょいで出来るからさ…こたつに入っときなって」
寒いのは結構苦手なはずなのに、自分からこたつを出てくるのは珍しいなと思ってたら…
後ろからギュウゥと腕を腹に絡め、抱きつかれた。
柄にもなく驚いて、持っていた包丁を危うく落としそうになったけど、なんとか踏張った。俺様エライ。
じゃなくて…
俺は平静を装って、最後のかまぼこを切り終える。
「だんな…だーんな…どうしたの?」
俺の背中に頭をぐりぐりすり付けてくる旦那が可愛くて、笑ってしまう。
「くすぐったいよー?…旦那?」
「起きたら…さすけがいなくてビックリした」
俺は、ああそういうことね。と納得する。
旦那は一緒に年を越すからと、こたつで仮眠をとっていた。
起きてみれば共に年を越す男がいない。
寝起きで寝呆けが入っているのも助けて、不安になったのだろう…。
(だから…可愛いんだってば…)
佐助は腹にある幸村の両腕をやんわりとのけ、身体を幸村のほうへと回転させた。
幸村を見やると、眉を下げ不安げに佐助を見上げる。
「あーそんな顔しなさんなって」
(我慢できなくなっちまうよ、)
佐助は苦笑して、両腕を幸村の腰にまわす。
「一緒に年越そうね」
腰にまわした腕にやんわりと力を込め、笑みを浮かべる。
「オレを…おいていくな佐助」
「おいていくわけないでしょ…」
佐助はチラリと時計に目をやる。
「だんな……キスしよっか…」
「なっ!破廉恥であるぞさすけっ!!」
佐助は騒ぐ幸村の顎を掬う。
「…幸」
「む……」
幸村も逃げられないと悟ったのか、ギュッと目をつぶる。
未だに馴れていないのか(馴れられてもなんか寂しいが)桜色の唇をふるふると震わす。
少し、いや、かなり…戸惑うけど…時間がない。
苦笑して、柔らかい唇にキスを落とした。
『2008年まで…10秒きりました!…』
耳元でテレビのそんな音を聞きながら、幸村の唇に触れるだけのキスを繰り返す。
『おめでとうございますっ!!』
その声にどちらからとも云わずに離れる。
でも、腰にまわした腕はそのままで、少し俯いた旦那をみる。
「キスで年…越しちゃったね………旦那…おめでとう、今年もよろしくね」
そう笑ったら、旦那にキスされた。
何事かと目を見張れば、嬉しそうに笑う旦那。
「今年も某の世話をするのだぞ、佐助」
そう言って、今のは前払いだとふんわりと笑った。
「今年も…旦那にはかなわないなぁ」
そう肩を竦めて、新年のあいさつを今度は旦那の唇に落とした。
今年も君にはかなわない
(まぁ、ずっとかなわないだろうけど)