ちょっと待ってくれ。
俺の考え方は可笑しいのだろうか。
いや、可笑しい。それは解っている。解っているけれど、




庇護されることは恥辱でしかなく




「お嬢…考え直しては下さいませんか」

俺は、女中にサラシを巻いてもらっているだろう主人を襖越しに膝をついて必死に言葉を紡ぐ。
今日は主人の初陣の日。

「ならぬと申した」

そうピシャリと何度か目の否定の科白を吐かれた時には、女中が襖をスッと開けてでてきた。

俺は襖越しに主人の影を見詰めたまま続ける。

「ですが…お嬢が嫌だと言われれば…」

貴女は姫として生きていけるのに、そう言おうとした言葉は襖を開け放つ小気味良い音と、主人の怒声でかき消された。

「某は武人だ!武人として育てられたのに今更、姫など…守られろなんて恥辱のなにものでもないっ!」
「ですがっ、」

紅が酷く眩しかった。

「某がおなごだからだと言いたいのだろう、それが恥辱だとわからぬかっ」
「……はっ、申し訳ありません…」

思わず立ち上がってしまったのを正し、膝をつく。
自分の不甲斐なさに唇を噛み締める。
そうこうしていたら、フワリと主人の香りが香った。
不思議に思い下げていた頭をあげると目の前に、主人の顔。
下がろうとしたときには既に両の手を両の手で包み込まれていた。

「佐助…」
「は…い、」

声が震えて情けない。

「俺と一緒に戦ってくれるのだろう?俺は佐助と共に戦いたいのだ」
主従の関係ではなく隣合わせで、お前と在りたい。
そう言って、キュッと握られた手は震えていた。
「っ…」
彼女の方が一枚も二枚も上手(うわて)で、誰よりも心細いはずなのに、俺は、なんて馬鹿野郎なんだ。

俺は無礼承知でそっと両の手を握られたまま、主人の甲に唇を落とした。

「御意に…俺が共に戦い、御守り致します。姫…」

パッと逃げていく手の白い手首を優しく掴みジッと見詰める。主人の瞳は色んな方向に右往左往。

「だ…から…」
「いいえ、背中を預けてくださるのですから、それぐらいはやらしてくださらないと、忍が廃れます」
お嬢は忍の仕事をとられるのですか、と言うと、うぐっ、と言葉に詰まる主人に少し笑った。
そして、少し真面目な顔をして言葉を繋いだ。

それに、一人の男として姫を御守りしたいのです。

言った途端、顔を真っ赤に染めた主人の張り手が飛んできたのに、暫く沈んだ。
が、なんだか、すごく気分が良かった。

主人の緊張も解けたのか、酷く柔らかな笑顔で、背中は任せたぞ佐助。
と、勇ましい紅い武人の背中が言った。


(貴女に何処までも、)




>>ごめんなさい。スランプです。



竜弥




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -