穢い、穢い、穢い。


この世は穢いものばかりだ。


狙いを定め、醜い肢体を鉄の塊で貫く。


それすらも穢らわしい。


醜い肢体がグシャリと音をたて崩れる。


流れ溢れる血の色がなんて穢いんだろうか。


その穢い血が己を染めているのに、吐き気がする。



火縄銃を地面に叩きつけ血に染まる、火薬で荒れている手を見つめる。




――…十蔵の手は荒れておるなぁ

火薬を扱いますんで…弁丸様……私の手に触れても汚いだけですよ?

なにを申す…弁丸は十蔵の手が大好きだぞ……―



穢い血の色とは比べものにならない。
目が冴える紅。


愛しい…紅。



「十蔵さんお仕事終わった?」


闇から姿を現し、十蔵の肩に手を置き笑みを浮かべる男、佐助。


現実に引き返されながら、十蔵は手を見つめたまま静かに言う。


「長……任務終わりましてございます」


しかし、丁寧に言葉を発した。


「いやだなぁ…十蔵さん……仕事は終わったんだからさ……あんたに長なんて呼ばれちゃぁ気味が悪いよ」

佐助は口に笑みを浮かべたまま、己の烏笛(とりぶえ)を鳴らす。
十蔵はボンヤリとそれを見つめる。

「黒嘸(くろむ)…かえるよ」

宙に差し出した右腕に大烏が飛び降り、佐助に擦り付いている。


「猿飛……」


闇に十蔵の声がよく通る。

「なぁに?十蔵さん」


烏をあやしながらいつもの掴めない笑みを張り付けたまま振り返った。

その笑みに悪寒さえ覚える。

この男の眼が苦手だ。
戦を楽しむ眼でもなく、戦を拒む眼でもない。

映るのは愛しい…主のみ。

だが、主を見つめるこの男の眼が…


狂気に満ちているのも、あながち間違いではいない。
いや、この男はいつも狂気に満ちている。


「ソレ……しまいなよ」


そう言われて、初めて己が苦無を握り締めているのに気が付いた。

「あんたじゃ俺様に勝てないよ……俺様…あんた殺しちゃって……旦那に泣かれちゃうの嫌だし」

だからソレしまってよ。黒嘸が殺気立ってかなわないよ。


笑みさえ浮かべているものの、もう既に滲み出る狂気に、背から汗が滴れる。


「猿飛が鈍って(にぶって)ないかちょっと殺気を加えて試しただけですよ」

白髪(はくはつ)を掻き上げながら笑みを携える十蔵。

「そっか、そりゃ問題ねーわ十蔵さん」

だって、あんたの前で隙なんか見せたことねぇからさ。


「旦那は長く傍にいるあんたより、俺様を選んだんだ……十蔵…長くいたからって調子にのんなよ」

旦那の白い躯も心の臓も紅い眼も全部俺様のモノ。


そう謳うように囁く。



「おまえは…幸村様を…」
(本当に愛しているのか)


「今日の月は紅いねぇ」


言葉を遮られながらも、目の前の男と同じ方に目をやる。

血に染まったような三日月形(みかづきなり)。

まるで血を啜り笑みを携える…唇。


十蔵は目だけは笑っていない自分の長を見つめる。


「仕事の後のあんたって…以外に穏やかな顔してるよね………旦那は俺のモノだからさ。あんま興奮しないでよね」

あんたには……紅い血がお似合いだよ。


佐助は羽音と共に闇に消え、そう残していった。


血に染まった手を口元に持っていく。


(嗚呼、狂気に満ちているのは自分の方だったのかもしれない)


月のようにつりあがった口元に手をかざし、込み上げてくる笑いをそのままに、十蔵は闇に溶けた。






紅いの興奮作用
(手を伸ばせど届きはしない恐怖)





>>黒佐助+黒十蔵…本当にごめんなさい。
超暗い。超黒い。
すごい捏造。
真田十勇士は幸村にみんな狂ってるといいななんて。←



竜弥



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