いかないで…
おいていかないで…

いいこでいるから…
いいこにするから…


かあさま…。
とおさま…。
にいさま……。

独りにしないで……。



罪深き闇は光を欲す




「っ……ぁ」

気が付いたら天井に手を伸ばしていた。
ただ宙をかく手が虚しい。
その手で顔を覆う。

「………?」

自分は涙を流していたらしい…耳まで濡れていた。


まただ。


昨日もその前も…同じ夢。

「…情けない」

自分を嘲笑い、両の腕で目を隠す。

未だに流れ続ける涙が憎らしくて、ギリリと歯を噛み締める。

「っ…なんで……とまれ…」

いつもの…温かさがないと自分はこんなにも弱い。

いないと…こんなにも孤独で無力だ。

今自分は…独り。


燃えるような柿色の愛しい忍がいない。

一週間で終わると笑顔で言って仕事に行ってしまった。

あの笑顔から三週間が経った。

よくあることだ。
忍とはそういうものだと幼い頃から言われ続けた。



だけれど、夜の闇が不安にさせる。
寂しさを何倍にも何倍にもする。

いつも闇に呑まれそうになる。


「っ……ひっ……く…」


温もりのない日の夜が続くと見る夢。


まだ弁丸だった頃。
母を亡くし、父を亡くし、兄と離れた日。

独りになった日の夢。



もう自分は弁丸などではない。

そう言い聞かせるものの、涙は枯れることをしてくれない。


嗚咽を押さえるためだけでもと、枕に顔を埋めた。


しかし、涙は溢れるばかりで枕をしとどに濡らしてしまう。



「どうして独りで枕を濡らすの?……旦那」

「っ?!」

ここにはいないはずの人。

枕から顔をあげ障子越しに、今し方現れた影を見つめる。


某を…独りから救ってくれた人。


「さ……すけ…」


障子を少し開け入り込む月明かりと影。


「さすけ…さすけ……」

床から躯を起こし月明かりに照らされる忍をみる。
表情が見えないのは、月明かりの所為か…自分の涙でぼやけるせいか。

そんなのどうだっていい。

「ひとりにしないで…」


手を伸ばしたら…温かい手で握り返された。


「さすけ…」

「旦那……遅くなってごめんね」


抱き締められて抱き締めて…感じるのは佐助の温もりのみ。


「だんな…独りで泣かないで…俺は…旦那の傍に必ず帰ってくるから……泣かないで」


独りだなんて思わないで。

そう苦しそうに佐助が呟くから、また涙があとからあとから流れてくる。


「某は…某は……佐助がおらぬと…いつまでも弱いままなのだ…いつまでも…独りなのだ」


だから…

どうか…独りにしないで…

そう囁くと、さらに強く抱き締められた。


「      」


耳元で囁かれた言葉に微笑み返すと、柔らかい笑みが返ってきた。


温かくて、幸せで……目を閉じた。


佐助の笑顔を見て思い出した。
幼い頃にも言われた言葉。





「嫌じゃ!某をおいていくでないっ!!」

幼子(おさなご)は二まわり程大きな忍の少年の忍服の裾を引っ張る。

「弁丸様…一週間で帰ってくるから……」

忍は困ったように眉を下げ、弁丸と呼ばれる幼子に言い聞かすように頭を撫でる。

「嫌じゃ!!…この前もそう言ったではないか!帰ってきたのは一週間後だったではないか!」

弁丸は、いやいやと言わんばかりに頭を左右に振る。
そんな弁丸に何度目かの溜め息をつきつつも、優しく教えるように言う。

「弁丸様?この間も言ったでしょう?…忍はそう言うものだって…ね?」

「いや!………独りは…いや……で御座る……さすけも…弁丸を…独りにするのか…」


最後の言葉は今にも消え入りそうで、佐助と呼ばれた忍は口元を歪め、苦笑した。


「弁丸様……弁丸様…」

「いやじゃいやじゃ……聞きとうない…」

両の耳を小さな手で押さえ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で佐助に突進した。


「うぁっとー……あーらら…鼻水…」

「うええっ…ざずげぇー」

佐助は頭をかき深く息を吸った。


「弁丸様……聞いて?」

佐助は弁丸の両の耳を塞いでいた手を、やんわりと包み外した。


「俺はあなたと共に有り、共に生きとうございます…あなたを独りになど決して致しません。どうか、この罪深き忍を信じてくださいませ。」

佐助はそう言うと弁丸の涙の跡が残る頬を指先で拭った。

「さすけ…は……弁丸を…ひとりに…しないのか?」

「弁丸様が…俺を必要として下さっている間…ですが…ね」

「弁丸は!さすけがいらなくなるなんてないぞ!!ずっとひつようだ!」

弁丸はギュウギュウと佐助に抱きつき叫ぶ。


「…有り難きお言葉」



そう言った後の佐助の笑顔が、今までで一番いい笑顔だった。





(何度でも申します。

あなたとともにありたい)


fin...



>>初バサラ文!
ああ、恐ろしい。なんて中途半端。
…佐幸+佐弁にみえるかな。
幸村はいろいろ怯えてたらいいと思う。そして、佐助がいればいいと思う。
みたいに思って書いた駄文。

竜弥




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