ふんわりと己を包み込む月がどうしようもなく大嫌いだった。

忍は闇に産まれ闇に生き、闇に死んでいく。
それが当たり前のことだと思っていた。
いや、今でも思ってはいる。

しかし、それを思わせてはくれない。そんな、自分の主がいる。
比喩するならば、忍を照らす月そのものだ。


だから、今ではこうして月の光を浴びたいと思ってしまう。

滑稽な話だ。


燃えるような紅色の髪を月明かりで照らす、由利鎌之助は自嘲気味に笑う。

そして、近づいてくる愛しい足音に耳を澄ます。

すぐに後ろから声がかかる。
自分の名を呼ぶ、主の声が。


「…鎌之助」


「若…この様な寒空に……お身体が冷えます」

やんわりと笑い、幸村の前に膝をつく。


「その様な膝をつき難いところで…畏まるでない」

幸村は口元を緩ませ笑う。
月明かりではっきりと見えるその笑顔が綺麗だと、鎌之助は元いた、屋根の瓦の上に立ちながら思う。


「…月が…綺麗でな……見たいと思うたのだ」

そう言い、先程鎌之助が腰をおろしていた横に腰をおろす。

鎌之助は自分が羽織っていた上着を幸村の肩にかけ、隣に立つ。


「鎌之助が寒いだろうに……某は鍛練している故、大丈夫だぞ」

そう言って、羽織を返そうとする幸村をやんわりと諭し、月を見上げる。


「今日は…月に手が届きそうな日ですね」

鎌之助の言葉に幸村は目を丸くし、下から鎌之助を見上げる。
幸村の視線に気が付いた鎌之助はきょとんとした顔を向ける。

「…なにか……失礼なことを申しましたか」

「いや……まあ、隣に座ったらどうだ」

「それは、できません」

鎌之助のいつものお堅い否定の言葉に、幸村は目を細め柔らかく笑った。

「やはり、鎌之助か…」

幸村の言葉の意味が分からず、鎌之助は首を傾げるばかりだ。

「「月に手が届きそう」など、昔の鎌之助は言いもしなかったなと思ったのだ…何故か無償に嬉しかったぞ」

幸村はまた綺麗に顔を綻ばせる。その横顔が、鎌之助には愛しい。

「…そう思わせてくれたのは…誰でもない……若です」

「よせ、煽てても何も出ぬぞ」

茶化すように言う幸村に真剣な目を向け、本当です。と呟く。
そんな鎌之助に苦笑し、幸村は月に手を伸ばす。

「……本当に…届きそうだな」

「……若なら、届きますよ」

月を見つめる幸村の横顔を見つめ、鎌之助は悲しそうに顔を歪めた。




月に負け犬
(月に手を伸ばす負け犬。
滑稽だと笑えばいいさ。)





>>鎌之助→幸村が書きたくなって書いてみたが…なんだ。こりゃ。
残念なことに…。
鎌之助の過去(幸村に出会った頃)書きたいなと。
今は幸村に従順ですが、会った当初は敵ゆえ…物凄い暴言はきまくって、死だけ待ってたと思います。
心を閉ざしてて…

敵の情けなんて受けないとか…。それを元服したての幸村が心を開かせたと!
と、妄想大爆発。


タイトルは…大好き林檎姐さんより。



竜弥



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