あなたがくれた優しさも、
あなたがくれた強さも、
あなたがくれた弱さも…
あなたが教えてくれた、愛する意味も…


あなたがいないとすべて成り立たない。
今の自分は空っぽの脱け殻の様で。

あなたの燃えるような紅を追うこともできなくて。
あなたの元に飛び降りたいと何度思ったことか。
しかし、それも叶わなくて。
待つだけの飛べない鳥ならば、また死ねばいい。






ピピピという電子音で目が覚める。
なんていうか、気怠い。
カーテンを開け空を見上げると、吐き気がするほどの青一色。
昔から、あまり好きな色じゃない。むしろ嫌いだ。
幸せの青い鳥なんて言うけれど、胸糞悪い。
昔から…昔…?


「昔…ねぇ」


そう呟き、ツキリと痛む頭に盛大にため息をつき、スウェットを豪快に脱ぎ捨て洗面所に行く。
顔を洗い、オレンジ色の髪を掻き上げバンドで止めた。
いつもの行程も面倒臭い。
「なんだってこんなに…」
気怠いのかねぇ。
ソレを言葉にするのも面倒臭くて、空気となって零れた。

夢なのか現実なのか分からない中に自分はいると思う。
佐助は着替えながら考える。

夢か現実か分からない夢。
夢だという事は分かっている。それでも、頭の片隅では警報がなる。


思い出せ…思い出せ。
忘れたのか…。


何か忘れてはいけない何かがある。
夢の中で泣くのは誰。怒るのは、笑うのは。

よくは分からない。分からないけれど、ここまでは幸せな夢だと思う。
問題は…続けてみる悪夢。


蒼紅…その色を自分は見つめるだけ。
食い縛る唇からは血が伝う。
どうして、己はここからひたすら傍観にまわっているのだろうか。
苦しい。悔しい。あの、蒼が…憎い。

挙げ句の果てには、あの蒼に大切なものを奪われた。

やっとの思いで震える手を伸ばす。
掴むのは折れた二双槍。

紅く塗られたそれは哀しげに、己の手を濡らす。
濡らすのは、自分の涙。

嗚咽を漏らし叫ぶ名前が思い出せない。


ここで決まって目が覚める。
場所も顔も名前もなにもかも思い出せない。
思い出せるのは、己の名を呼ぶ声だけ。

いつか見なくなると思っていた。しかし、かれこれ気が付けば十年以上も同じ夢。
いつかなんて曖昧な言葉じゃ片付けられない。


「じゃあ…どうしろってんだ…」


そう呟いた言葉に佐助は苦笑しカバンを持ち外に出た。



ガツン…



押し返してきたドアに些か驚く。

「ったぁぁ…」

乾いた空気と共に流れ込んできた苦痛を訴える声に、佐助は面倒臭そうにカバンを玄関に放り投げた。


「あの…すみ…ま…」


ドアの前で蹲っている人間に声をかけようとして、言葉が詰まった。

心臓がとまった。


広がる亜麻色の髪、声、紅。
全てがあの夢の様…


心臓が動き始め、ドクリドクリと早鐘を打つ。


一気に入り込んできた映像に、佐助は吐き気とあまりの頭痛にその場に蹲った。

耳に入る声と頭の片隅から呼び掛ける声が交差する。

「佐助…さすけ…」


その言の葉に涙が溢れた。
佐助は目の前の小さな塊を掻き抱いた。


「旦那っ…だんなっ…」


嗚呼、こんなところに…。
(こんなところにいたんだね)


抱き締めてカシャリ…と鳴ったのは六文銭だろう。
今なら分かる。


背負う、身につける六文銭が嫌いだった。
纏う紅が好きになれなかった。

しかし、一番好きな色。あなたをあらわす紅。
あなたの六文銭。

愛しい。存在が愛しい。


「この真田幸村…猿飛佐助を探して来た……佐助の隣に一生いたい…佐助と…並んで歩みたい…」

ポロポロと涙を流しながらあの笑顔を見せた幸村に、佐助も泣き笑いを見せた。

「うん…旦那が拒否しても…傍にいる…今も昔も…これから先もずっと…一生一緒にいよう?」



さよならブルーバード
(青い鳥なんて糞食らえ、
欲しいのはあなただけ)






title:カーテンコールは二人のために






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