「ゆきむらーゆきー」

どうして、この様にド派手な奴が忍なのだろうか。

肩にズシリとのしかかる腕に幸村はため息をつく。


「…六郎……いい加減離してはくれぬか」

「いやや…幸村すぐ逃げるやろー?」

幸村にひっついときたいんや。
と、橙色の髪をもつ望月六郎は騒ぐ。

「女中はどうした…先程お前を探しておった女中がおったぞ……また入ったばかりの女中に手をだしおって…破廉恥極まりない」
幸村は六郎をそのままに、書きかけの文を書くため筆を走らせる。

その様子を眺めながら、ニンマリと六郎が笑みを携える。

「なんや…嫉妬かい」

「愚か者」


幸村は持っていた筆を容赦なく六郎に向かって突き付ける。

「うっわ!ちょ…」

六郎はヒョイと除けたが幸村の首元から両腕が弛んだ、その拍子に幸村が抜け出し幸村はくるりと反転を決め、六郎に多いかぶさった。

「一本とったぞ」

六郎の頬の真横に腕を突っぱね、幸村はしてやったり嬉しそうに笑った。

六郎はボンヤリと幸村を見ていたが、直ぐに幸村の腰に手を添え、もう片方で幸村の後頭部を押す。

「大胆やなー幸は……大歓迎やけど」

目の前にはニヤリと笑う六郎。
幸村はしまった!
と六郎から離れようとするがバランスも取れず逃げ出すこともできない。

幸村は反射的に目をつぶる。
それに気をよくしたのか六郎は幸村に接吻をおくろうとする、が。


「お楽しみのとこ悪いんだけどさぁ…六郎、旦那返してくんない?」

いきなり横から声をかけられ、二人はすぐ横を向く。
そこには、笑顔を張りつけた佐助の顔。


「猿…じゃなくて……お…長…いつから」
(笑顔がこえぇ)


六郎の言葉にヘラリと笑い、最初から。と佐助は答えた。

その答えに六郎は蒼くなる。

「やんちゃも程々にしようね、旦那」


脇に腕を差し込んだかと思うとふわりと幸村が浮き上がる。

いつもなら騒ぐところだが、今は後ろが恐ろしい。
幸村は口を閉ざし、佐助に抱えられるままになっている。

六郎は幸村の後ろで、未だ物凄い笑顔を張りつけた佐助を見て、ひくりと口を歪ませた。

「…長、見張りに行ってくるで」

「うん分かった。…後でね」

その言葉を聞いて六郎は顔を引きつらせ、逃げるように消えた。


いつもは荒くれ者で掴み所のない六郎は、佐助や他の忍に対してもその姿勢は崩していなかったのが、幸村には真新しい記憶だった。しかし、今の佐助は幸村でも話したくないと思わせる程なのだ。


さっきまで殺気を滲みだしていた真田忍隊の長は、今ではその殺気はどこへやら。きっと、自分の後ろの顔は嫉妬か何かで歪んでいるのだろうと安易に予想が付くと、幸村は苦笑する。

毎度毎度…慣れない男なのだ。


「佐助……」

「……」

「さすけ…」

「………」

返答が全く無い佐助に、これでは埒があかないと幸村はため息をついた。


「…どうしたのだ…佐助」
幸村は佐助の手の甲を優しく撫でる。

佐助はビクリと震え、小さくため息をつき幸村を降ろした。

すぐに佐助の顔を見て、幸村は案の定な佐助の顔にまた苦笑した。
そんな幸村を見て顔を片手で隠す。

「だから…言ったじゃない」

「なにをだ」

幸村は佐助の片方の手を掴み聞く。
佐助は指の間から幸村を見る。


「…俺様は…嫉妬深いってさ」

まさか本音を言うとは思わなかった幸村は、顔を真っ赤にする。
そんな幸村を見つめ、佐助は幸村の自分を掴んでいた腕を掴み、幸村を胸に引き寄せ耳元で囁いた。


「…あんまり……妬かせないでよね」

「さ…すけ」

幸村は気恥ずかしいのか佐助の腕の中でもぞもぞと動く。
そんな幸村を離すまいと佐助は抱き締める力を更に強くする。

そんな佐助に苦笑しつつも、幸村は嬉しそうに微笑み、佐助の背に腕をまわした。
その行動に気を良くしたのか佐助は幸村の首元で囁く。

「……ねぇ…接吻…していい?」

「……好きに…しろ」


佐助はやっと幸村に笑顔を向け、目蓋を閉じてふるりと睫毛を震わせる幸村に接吻をおくった。




束縛より支配
(ねぇ、好きだよ)




>>哀れ六郎。
嫉妬する佐助が書きたかったのに…
案外さっぱりな佐助だな。
十勇士に幸村をとられそうでヤキモキしてる長が好きです。


竜弥



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