異伝、1回目ハイス戦直後。ネタバレありです。






憎かった。すべてが憎かった。妬ましかった。
兄ば暴君だった。自分の方がまだ民のことを考え、よい政治ができる自信があったのだ。しかし王位を継いだのは長子である兄。用無しとなった自分は、ニエとなるさだめだった。逃れることのできない、運命。
認められなかった。なぜ自分が、道具のように使われ捨てられなければならないのか?
だから逃げた。いつか必ず、復讐を。そう誓って。




儀式ができなくなった兄が変わりに子供達に儀式に使おうとしていると、しかも兄であるエルンストをニエとしたと聞いたとき、驚愕した。エルンストは自分によく懐いていた。昔から頭の回転の速い、賢い子供だった。
救わなければと、思った。そしてエルンストなら、エルンストとならば、分かり合えると。


あまりにも多くの時を移動してきたから、時間の感覚はあまりない。ただ、長い時を生きた気がする。体も随分老いた。その時の中、孤独と苦しみだけが積み重なった。
滅んでいく世界、それを知りながらなにもできない、しないでいる人間達。ニエばかりが死んでゆく。
この苦しみを、エルンストとなら分かち合える気がした。





それからいくらかの時が流れた。ストックは、白示録を使いこなせている。少し打ち合っただけで技を盗むとは、なかなかの成長ぶりだった。

(すばらしい成長だ…はやく、ここまでこい、ストック)

カツリ、カツリと音を鳴らして歩くハイスは、薄く笑む。

(もうすぐだ…この価値のない世界を、早く終わらせよう)

道化師は笑む。








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