「エルーカ!」

叫んで、ストックはエルーカの前にひらりと躍り出る。そのまま魔物の攻撃をいなし、ひゅん、と剣を翻して止めを刺した。あっという間だ。

「…申し訳ありません……」

「気にするな。あんたは王女だ。こんなことは得意じゃなくていい」

そう、エルーカは王女だ。だから戦うことが本職ではないし、それ故に戦闘では度々ミスを犯す。今回もそうだ。迫り来る敵を避けるか撃つか、判断が遅れたエルーカを、ストックがかばった。こんなことは今回だけではない、よくあることだし、当然のことだ。けれど何故かレイニーは、それが気に入らなかった。
レイニーは傭兵団に属していたし、その後はアリステルの諜報部で戦ってきた。自分でもプロだと思っている。だからストックの手を煩わせるようなミスは殆どしないし、しても少し回復をしてもらうくらいだ。自分でもなるべくしないように心がけている。
だからストックも信頼して、レイニーに背中を預けてくれるようになった。レイニーもストックに背中を預けた。だからお互い目の前の敵に集中できる。
だが、エルーカはそうはいかない。彼女の銃は強力だが、接近戦に持ち込まれれば危険だ。だから彼女に敵が近づきすぎようものなら、ストックはすぐに助けに行く。
当然のことだ。彼女はこの戦争のカギを握る王女。死なせるわけにはいかない。
レイニーも、それはしっかりわかっていた。けれど、

(…気にくわないよ)

何がそんなに気にくわないのか、レイニー自身もよく分かっていなかった。エルーカを庇うことで、ストックが危険に晒されるから?でも、ストックはそんなに弱くはない。レイニーはストックを信じていた。

(なんでだろう)

悩んでいるうちにも、また新たな敵が迫る。
ストックは先陣をきって走り込み、敵の数を減らす。エルーカは援護射撃の体制に入った。レイニーも魔法の詠唱を始める。
その時。
横から不意打ちで魔物が飛び出して来た。まっすぐにレイニーに向かってくる。ぎらりと牙が光るのが見えた。エルーカの叫びが遠くに聞こえる。詠唱も槍も遅すぎた。

(やられる!)

牙が届く寸前、赤いものが視界をさえぎった。









「あの、ありがとう、ストック」

間一髪のところでストックが間に入り、いつも通りの素早い剣術で敵を斬り伏せた。おかげでレイニーに怪我はない。

「気にするな」

「でも、ごめん、迷惑を…」

「…そんなふうには思っていない。俺もお前の魔術に助けられている」

お互い様だ、と彼は言った。




レイニーは不思議な気持ちだった。守られたことにはプロとして不甲斐なさを感じる。だがしかし、嬉しくもあった。

(守られて嬉しいなんて、)







彼女が自覚するまで、あとすこし






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