彼、ストックがさくさくと草を踏んで歩いていくすぐ後ろを、アトが楽しげに歩いていく。その半歩後ろをレイニーとマルコが何かを話ながら歩き、そのさらに後ろからエルーカはついて歩いていた。
なんの気はなしに、ぼんやりと、先頭を行く彼の跳ねる毛先を見つめていた。そして、遠い過去の記憶を思い起こす。
まだエルーカが小さかったころ、兄にこっそり城下に連れ出してもらったとき。兄の手を握って必死に着いて行った。見上げれば兄の横顔と、金の髪。自分と同じはずのその髪色が、太陽に透けて美しく輝いていた。
思わずじっと見つめていれば、それに気づいた兄と目が合う。兄は薄く微笑んで、

「エルーカ?聞いているのか?」

「、え?」

ふと気づけば歩みは止まり、全員がエルーカを見ていた。ストックの青い瞳も、彼女を見つめている。兄と同じ、青い瞳。

「あ、ええと、すみません。ぼんやりしていました…」

「…今日はここで野宿をする。いいな?」

「あ…はい。もちろんです」

エルーカのその言葉を受け、レイニーとマルコはテントの組み立てにかかる。アトとストックは薪を拾いに行くようだった。

「エルーカ」

自分はどうしようか、手を出せないでいるエルーカにストックが声をかける。

「あんたはレイニーとマルコの手伝いを頼む。大丈夫だとは思うが、一応周囲には注意してくれ」

「あ…はい」

「…大丈夫か?様子がおかしいな」

「え?いえ、そんなことは、」

ぽん、と頭の上に乗せられた手に、エルーカは思わず言葉を詰まらせる。

「慣れていない環境なんだ。あまり無理はするな。何かあったら俺でもレイニーでもいいから、言うことだ」

「、あ、あの、」

「話すことで楽になることもあるだろう。…じゃあ、行ってくる」

ストック、早くするのー!
アトがそう呼ぶのが聞こえてきて、ストックはそちらの方に歩いていく。
エルーカは、動けないでいた。また、昔のことを思い出していた。エルーカが不安な時、悲しい時、兄はいつもエルーカの頭の上にぽんと手を置いて、優しい言葉を紡いでくれた。それでエルーカはいつも元気になれた。ふたりで城下に向かったときも、慣れないことに不安がるエルーカを、そうして安心させた。
ストックは、兄、エルンストではない。けれど、彼のしぐさの一つ一つはあまりにも兄に似ているのだ。



エルーカは一度目を瞑ってから、テントの組み立ての手伝いに向かった。



とおいきおく







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