パラレルエンド地図を睨み付けて、考える。敵はどこから攻めてくるのか?どこにどう兵を置けば、より効率的に、安全に、退けることが出来るのか。
「あまり、根をつめるな」
「………」
「それではいずれ、体を壊すぞ」
「…ああ」
ビオラに諭すように言われても、ストックの思考は戦場から離れることはない。敵の残存兵力を計算する。自軍の兵力と照らし合わせる。
「…おい、もう、」
「どうすれば、犠牲が少なく済むんだ?」
「………」
「どうすれば…」
「…少し眠れ。あまり眠れていないだろう。ほら、早く」
「いや、まだ、」
「いいから!はやくしろ!」
半ば追い出されるようにして会議室から出て、仕方なく自室への道を歩いた。ビオラの気遣いは有り難かったが、またいつ敵の攻撃が再開されるか分からない。そうしたら真っ先に危険に晒されるのは見知った砂の砦の兵達だ。気が気でない。出来るならば現地に行きたい、共に剣を振るいたい、彼らの支えとなりたい。けれど彼の立場がそうはさせなかった。
「これもまた報いか、」
友を救えなかったことの。
久々に戻る自室は酷く冷たく思えた。着込んでいた装備を適当に脱ぎ捨てて、ベッドに倒れ込む。ビオラの言うように、今自分に必要なのは休息であろう、けれど頭はいやに冷え切って、それを許さなかった。もう何日もまともに寝ていない。それでも睡魔はやってこない。
思考は過去へと流れてゆく。もう何度思い返したか分からない、そして何度後悔したのか。
「…ロッシュ、」
唇は今はもういない友の名を紡いだ。
あの時。ロッシュ隊を助けに行けばよかったのか。それとも出陣の時点で遅すぎたのか。敵の作戦に早く気づいていたなら?そもそもロッシュにさせるべきではなかったか…。
無駄なことだと分かっている。分かっているけれど止められない。考えずにはいられない。
(逃げたいんだ、俺は。逃げられはしないのに、)
そして思考は現在に戻る。今は自分が、彼と同じ、いや、彼以上の立場になってしまった。
(俺が獅子とは…皮肉だな)
ロッシュの穴を埋めるように、ストックは自分の隊を持った。そしていつしか『獅子将軍』と呼ばれるようにまでなった。けれど、
(獅子の名は、本来ロッシュのものだ)
雄々しく、勇猛果敢に、雄叫びでもって部下を鼓舞し、荒々しく敵をなぎ倒す姿はまさしく獅子だった。その点どうだ、自分は。もともと人の上に立つのはあまり得意ではないのに。
この獅子の名は、彼を救えなかった罰なのか。責任なのか。ならば果たさなければならないだろう。せめて彼の望んだように、世界を。けれどストックは苦悩する。彼の顔が脳裏をよぎる。
もう直ぐ会議室に戻らなければ。そして作戦が決まったのなら、また戦場へ行く。その繰り返し。その度に民は自分を期待で満ちた目で見つめ、例の名を呼んで送り出すだろう。
「俺には、この名は重すぎる…」
懺悔を聞く者はいない。
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