本編前捏造。苦手な人はバックプリーズ。
ワールドガイダンス読んだ人むけ。









「おじうえ!」

呼ばれて、ハインリッヒは振り返る。遠くから走りよってくるまだ小さな甥をみとめ、彼は頬を緩ませた。

「おじうえ」

「どうした、エルンスト。今日の稽古は終わったのか」

「ちゃんとおわりました」

少し得意気に自分を見上げるエルンストにハインリッヒは目を細め、その頭を撫でる。エルンストも嬉しげだった。
ハインリッヒは甥であるエルンストを可愛がり、エルンストも彼によく懐いた。暇な時、よく2人は共に過ごし、ハインリッヒはエルンストに様々な知識を与えた。まだ幼いながら、エルンストは飲み込みが早く、なんでもよく吸収する。

(賢く、素直な子供だ。兄とは随分と違う)

ハインリッヒには兄が羨ましく思えた。自分にもこんな子供がいたならばと、彼はしばしば考えては、ままならない現実に落胆した。
自分が暖かい家庭を持つなどということは決して起こりえない未来である。ハインリッヒがどんなにそれを望もうとも、自分が王家の第二子であるという事実が、それを阻んだ。

「エルンスト、今日は本を読む約束だったか」

「はい!」

「ならば、私の部屋へ行こう。今日の本を決めなければ」

そう言って、自分の部屋へと足を向ける。許されないと、一時の幻だと分かっている。けれども今は、隣に並ぶ甥と、安らかな時を過ごしていたかった。



されど運命は残酷なもの。血の宿命は容赦をしない。ハインリッヒはその宿命を良しとせず、抗うこととする。



敵国に移り住み、名前を変え、ハインリッヒはハイスとなった。もともと優秀である彼の地位は、アリステル内で盤石なものとなりつつある。
密偵を主な仕事としていることもあり、グランオルグの状況はよく耳にした。兄であるヴィクトール王の治世は民に厳しく、巷では暴君と称されていた。もともと兄は目的の為には多少の犠牲は厭わない性格であるから、この情報はハイスにとってさほど驚くべきものではない。ハイスが一際気をつかい、情報をかき集めていたのはエルンストについてだった。
自分は宿命に抗った。ニエを犠牲にし、僅かな延命を行い続けるだけで、それで満足している世界に、人々に、絶望した。エルンストにもいずれ儀式のことは告げられるだろう。もう知っているのかも知れない。幼い時から聡く、真っ直ぐだった彼は、あの邪法をどうみなすのだろうか。
成長したエルンストはどうやら父には反発しているようだった。民を省みない父とは対立し、よく城下に足をのばしては民と語らい、様々な改革を行う。民からの信頼は絶大。

(何も起きなければいいのだが)

不安であった。ヴィクトールは犠牲を厭わない。エルンストを疎ましく思っているであろう彼が、何かしないとは思えなかった。

(もう少し、私に力がつけば、)

アリステル内での地位が上がり、発言力が強まったならば、アリステルという国家を使ってでも、ヴィクトールを退けよう。そして数少ない、ほんの少しの大切なものを、守ってみせる。

(だから、もう少し)

もう少しの辛抱。またエルンストとあの穏やかな一時が過ごせるようになるまで。もう少しだから。



されど運命はいつでも残酷。エルンストが反逆罪で処刑されるまで、もうまもなくのことだった。





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いまいち不完全燃焼…私にもう少し力があれば、連れ去るとこまで書きたいんですが。
ワールドガイダンスを読んで、ハイスはほんと甥っ子好きだなーと思いました。ほんとはもっと色々…みっちり書きたかった…力不足です…






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