真エンド後捏造かつり、かつりと音を立てながら、ストックはゆっくりと階段をのぼっていた。そうして歩いていると、この一年の様々なことがを思い出される。
随分と、慌ただしい一年だった。
階段をのぼって一番奥が、最近ストックに割り当てられた部屋だ。もともとストックの物である部屋なのだが、ストック自身にその実感はない。だから何時までもここに居座るつもりはないのだが、一先ずの拠点として借りている。
(エルーカも、嬉しそうにしているし、)
しばらくこれでいいだろう、とストックは考える。
エルーカ、血の繋がる妹。ストックにはやはり実感がない。ないが、純粋に大切な仲間として、妹のように感じることは最近よくあることで、エルーカもストックを兄と呼ぶ。
ストックには、それでいい、と思えていた。
それでいい。
なんの支障もなく、穏やかで、幸福だ。しばらくぶりに感じるこの幸福に、今は浸っていたかった。
ストックの部屋は簡素なもので、机と椅子、ベッド、小さなタンスがあるだけだ。その椅子に深く腰をかけ、ふと窓の外を見た。外はもう、薄暗い。
(それにしても、)
出会いの多い年であったと、ストックは考える。
レイニーとマルコに初めて会ったときはどうしたものかと思ったが、結局は随分と助けられた。アトやガフカには今まで知らなかったことを教えられた。エルーカには家族を貰ったことになるか。ロッシュとは本当の意味で親友になれたと思う。それから、ハイス、あの男。
感謝をしていた。ハイスが何を目的にやったことであれ、ストックはそれによって多くのものを得た。だから感謝をしている。ハイスは、嫌がるのだろうが。
出会いも多かったが、別れも多かった。ひとつひとつが忘れがたい、つらいものであり、けれどそれを無駄にしないために、自分達は進んでいかなければならない。
まだ始まったばかりだ。何も終わっていない。
(まだしばらくは、忙しくなりそうだな)
外はもう随分と暗くなって、眼下の街並みには明かりが灯り始めた。さて、夕食はどうするか、と考えたところで予定があったことを思いだす。
「この時間では…遅刻か?急ご、」
「ストック!」
急ごう、と言い切る前に、蹴破られんばかりの勢いで扉が開かれて、飛び込んで来たのはレイニーだった。後ろからぞろぞろと見知った顔が入ってくる。
「ちょっとストック!何のんびりしてんの!今日はパーティーだって言ってたじゃない!」
「ちょっとレイニー、落ち着いてよ!ストックだって疲れてたんだって」
「でもあたし、おなか空いちゃった」
「ふふ、コックが腕によりをかけて、ご馳走を作っていますからね」
「楽しみなの!」
「王宮の食事だなんて、光栄じゃねぇか」
「ふむ、期待できそうだな」
「だからほら、ストックも早く早く!」
ほらほら、とレイニーに急かされてストックは立ち上がる。直ぐにアトが飛びついてきて、それを片腕で受け止めた。
「ストック!ご馳走なの!」
「ああ…らしいな」
「楽しみなの!」
「そうだな」
ぐいぐいとアトに引っ張り出されて、ストックは廊下に出た。続いて全員廊下に出て、ストックの部屋の扉は閉められる。
今日は年越しのパーティーだった。旅の仲間達が無事に、この日を迎えられたことを祝して。
失ったものも多い戦いではあった。けれど得たものも多い。
(なあ、ハイス、こんな世界も悪くないだろう)
あんたがあんなに憎んだ世界も、少しずつ変わろうとしているから。もう少しだけ、見守ってほしい。
真っ直ぐに、進んで行くから。
年が、明ける。
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正月くらいみんなで笑っていてほしくて、でもなんかしくじった。
あけましておめでとうございます!
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