終盤ネタバレ!唯一無二なのだ。何物にも替えられない存在なのだ。
自分にとってただひとりの理解者と成りうる存在を、ハイスは失いたくなかった。絶望に染まるハイスの世界の、ただひとつの希望。だから救い出したのだ。世界で唯一、愛しく愛すべき存在。
だがその希望は今、目の前で消えようとしている。自ら消えようとしている。
その忌々しい儀式が執り行われたならば、ストックの魂はエルーカの元に帰るだろう。眩いばかりの唯一の希望は、最も憎むべき術者の元へ。
ニエの悟りなどクソ食らえ、ハイスにとってこの大陸は、守るべき価値のある世界ではない。その世界にある何もかもが、下らなく、愚かで、その姿勢はあまりにも怠惰だった。幾度も繰り返される儀式とニエの死を知りながら、何もしようとしない。その怠惰をことさらハイスは憎んだ。そんな世界を守るつもりはさらさらない。
だがしかし、ただひとつ守るべきものが在るとすれば、それは、
(…死なせて、なるものか、)
ハイスはことさら怠惰を憎んだ。故に、自分に出来ることがあるのに何もしないことは、ハイス自身が許さない。だからハイスは行動する。
(たとえこの身が尽きようとも、)
この世界でただひとつ、己の愛した希望だけは。この希望だけは、守らねばならない。
(…ニエの悟りなど、クソ食らえだ)
ハイスの心は、酷く穏やかだった。
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