ここにきてまさかのBL。しかもぬるい。苦手な人、逃げて!マジ逃げて!







「ストック副隊長!」

今日もいつも通り、元気に声を上げて、キールはストックに駆け寄った。
砂の砦に到着してから数時間が経った。ロッシュ隊の兵の疲労はかなり回復し、皆訓練を開始していた。キールも同じく訓練をしようとしていたのだが、そこに現れたのがストックだった。

「キールか…どうした?」

「訓練をしようと思っていて…宜しければ、お相手して頂けませんか?」

「ああ…構わない」






ひらり、ストックの赤い服が舞って、キールの剣は軽く流されてしまう。もう一度、振りかぶった剣を今度はあっさり弾かれる。バックステップで距離を取って、上がった息を整えた。

(やっぱり、すごく、強い)

今までの戦闘を見てきて、とても強い人だとは分かっていた。分かっていたが、実際に剣を交わせばその強さは直に伝わってきた。弾かれた剣から手に伝わる振動はリアルだ。

(やっぱり、凄い人なんだ!)

今自分の目の前にいる人物は尊敬に値する人物なのだと、改めて実感する。
けれども、そんな思考は戦いの場においては邪魔なものでしかない。

「…隙だらけだ」

「、え?あ!」

正にあっと言う間。瞬きをする間にストックはキールの懐に入り込んで、ひゅん、と剣を振り上げた。キン、と音が響いてキールの剣は宙を舞い、背後に落ちた。

「あ、あれ?」

ストックの動きはキールには全く見えなかった。すっと消えて、いきなり目の前に彼がいて、今もストックの端正な顔が目の前にある。
キールは、自分の顔に熱が集まるのを感じた。感じて、戸惑った。

(え、え、なんで、)

「…おい?」

「は、はい?!」

予期せず大きな声が出て、キールは少し慌てる。そんなキールを少し訝しげに思いながらも、ストックは身を引いた。
ストックが離れたのを瞬間的に名残惜しく思ってから、キールはまた慌てる。どうしてそんな風に思うのか、キールにも分からなかった。

「…何か、考えごとか?」

「え?」

「隙が多すぎる。…考えるのは構わないが、実戦までにはけりをつけておけよ」

「そ、そんなに隙が多かったですか?」

「多すぎだ。ぼんやりしているようじゃ、訓練にはならない。…少し、休んでこい」

「し、しかし、」

「稽古ならまた付き合ってやる。…今は取りあえず、休め」

それだけ言って、ストックは身を翻して行ってしまった。残されたキールは考える。

(…なんで、あんな風に思ったのかな…)

間近で見た彼の顔を美しいと思った。もっと近くで見ていたいと思った。
自分は前から彼に憧れてはいたが、これでは憧れというより、むしろ…

「ま、まさか!」

顔を赤くして叫んでから、ここが公共の場であることを思い出す。訝しげに見てくる兵士たちからそそくさと逃げるようにその場を後にしながら、キールは自分の考えを必死で打ち消した。

(そんなこと、あるわけ無いし、あっちゃいけない!)

(だって、自分たちは男同士だし)

(なにより副隊長に迷惑が)

(あ、でも)

(また稽古の約束、してもらえたな…)







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