焦がしバターの甘い誘惑

「ナマエ〜!」
 最早聴き馴染んだ可愛らしい声音に自然と頬が緩んでしまう。キラキラと太陽の様な笑顔が梅雨時期に眩しい。俺のリビングに鎮座するその姿に違和感を覚えないくらいにルフィくんは馴染んでいた。
「ルフィくんいらっしゃい」
「おう!また来たぞ!」
 にしし、と歯を見せて笑ったルフィくんが俺の足元にぎゅっと抱き着いた。ルフィくんは力持ちなのか子供なのに中々の衝撃だ。うーん、さすが座敷童子。
「そういえば聞きたかったんだけど、ルフィくんってどうやって俺の家に来てるの?」
 足元のルフィくんを抱き上げようとしたけどいらない、と断られてしまった。もう抱っこは卒業しているらしいルフィくんに少しだけ寂しさを感じてしまう。目線を合わせるようにルフィくんの隣に座るとルフィくんもそのまま床に胡座をかいて座り込んだ。
「知らねェ。気が付いたらナマエの家に来てるんだ」
「そうなんだ、じゃあ俺と一緒だ。俺も知らない間にルフィくんが来てるんだ」
 不思議だね、と笑えばルフィくんも頷きながら不思議だな〜と笑った。ルフィくんと居ると自然と緩い空気感になって癒される。頭を撫でると子供特有の細さがある黒髪がさらさらと指の間から溢れた。
「ナマエのとこから帰ると大体寝てるんだ。だから夢かと思ってた」
 もしかしたらルフィくんの世界からこっちに来るのは疲れちゃうのかもしれない。座敷童子の謎の力を使うとか?いや、よく分からないけども。
「でも夢じゃなかった!おれ、ナマエが好きだから会えるの楽しみにしてんだ」
 両手を頭の後ろで組んで楽しそうに笑うルフィくんに嬉しくなる。こんなにも真っ直ぐな好意を受けるのはなんだか久しぶりな気がする。
「俺もルフィくんが大好きだから会えるのが嬉しいよ」
「そっか!」
 お互いに顔を見合わせて笑う。一週間働いた身に染み入るような幸せさだ。
 これで天気が良ければ外に散歩にでも出掛けようと言いたい所だけどあいにくの雨。ルフィくんは活発な子らしく、出会ってからじっとしている事が少なかった。あれは何?これは何?と目に付くもの全てに興味関心を抱く様子は大層可愛らしかったけど、ルフィくんの住んでいる世界がこちらとは違うのだと改めて実感させられた。
 本当なら外に出掛けて遊んであげたいのだけど、雨の中傘を差して視界が悪くなってルフィくんを見失いでもしたら大変だ。なのでルフィくんとは室内で遊んでいる。
 さて、今日は何をしようか。
 
「あ、そうだ」
「なんだ、ナマエ?」
 突然思い出した様に声をあげた俺にルフィくんは驚いた様に丸い目を更に丸くする。こういう一つ一つの所作が素直な感情をそのままストレートに反映していて微笑ましい。丸い目は期待にワクワクと輝いていた。
「ルフィくんが来た時に、と思って……」
 期待を煽る様に少しだけ間を開けて焦らすと、ルフィくんが待ちきれないと言わんばかりに前のめりになった。そんな可愛い反応に思わずニヤけてしまう。
「ホットケーキミックスを買っておいたんだよね」
「ホットケーキミックス??」
「なんとルフィくんでも簡単にホットケーキが作れちゃう魔法のアイテムなのです!」
 芝居がかったように大袈裟に言うとルフィくんの瞳がますますキラキラと輝いた。分かるぞ、その気持ち。魔法って胸躍る言葉だよね。
「おれでも出来るのか!?」
「勿論!ただし、火を使うので大人の俺と一緒に作る必要があるけど……どうする?作る?」
「作る〜!!」
「あはは、だと思った!じゃあ今日はホットケーキを作ろう」
 握り拳を作った両手をバンザイするかの様に上に挙げて全力で喜ぶルフィくんに俺も嬉しくなる。こうやって喜怒哀楽すべてを惜しみなく表現出来るのは子供の特権だ。
 ぴょんと飛び上がる様に立ち上がってそのままキッチンへと駆け出したルフィくんを追い掛けるように俺もキッチンへと向かった。

「ナマエ、早く作ろう!」
「その前に、まずは手を洗おう」
「分かった!」
 普段あまり使わない折り畳みの踏み台をルフィくんのために出すと意図を理解したらしいルフィくんは軽々と踏み台に飛び乗った。身軽だなぁ。
 ルフィくんがシンクで手を洗っている間に俺は着々と準備を進める。冷蔵庫から卵と牛乳、そして本日の主役であるホットケーキミックスを取り出していると横からの視線を感じた。
「洗えた?」
「おう!ばっちりだ!」
 得意気に両手を俺に見せるルフィくんに俺はホットケーキミックスを手渡した。これが魔法のアイテムだ。
「それが魔法のホットケーキミックスだよ」
「これが?」
 不思議そうにパッケージを見て首を捻るルフィくんに大きく頷いて見せた。これがあれば面倒くさい工程が全部すっ飛ばせるのである。考えた人は天才だ。
「じゃあ、やってみよう!」
「おー!」
 卵と牛乳をシンク横の調理台に置くとルフィくんも俺に倣ってホットケーキミックスをその横に置いた。ウォールキャビネットから必要な調理器具を取り出しているとルフィくんは楽しげに踏み台の上でパタパタと足踏みをしながら身体を揺らしていた。









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