こども特権[上]


昨日の夜、アルベルトに膝枕を要求したら断られた。じゃあ逆に私の膝枕に寝てほしいというと、それも断られた。
そういう、いかにもな甘い展開を、アルベルトはなかなか許してくれない。
でも私はもっと、アルベルトの後ろから腕を回してギュっとしたり、ソファーに座っているアルベルトに膝枕してもらったり、逆に私が膝枕してあげたり、その他諸々子供みたいに甘えたりしたい。

「いっそ子供になれたらいいのに。」


* * *

「アルベルトーあそんでー!」
ソファーで本を読んでいたアルベルトの腰辺りに、4、5歳ほどの少女が突進してくる。本を傷めないようにととっさに両腕を上げたアルベルトは、少女の頭突きを諸に食らって、ぐふっといううめき声を上げた。
腰に抱きつき、見上げてくる少女に憎らしげな目を向ける。しかし少女はそれにひるむ様子も無く、寧ろその視線に気分を害したようで、負けじと口を尖らせて睨み付けてくる。
「遊んで!」
「ジェット!シュウが暇してるぞ!相手をしてやってくれ!」
「いやだ!アルベルトがいーい!」
「嫌ってなんだよ!今まで誰が遊んでやったと思ってんだ!」先ほどまで幼いシュウが要求するまま、彼女を抱え上げたり、振り回したりしていたジェットがリビングで抗議の声を上げる。
「とにかく、俺は忙しいんだ」
アルベルトは一旦本を横に置き、腰にしがみ付く少女の両脇を掴んだ。自分から引き剥がそうとするも、思いのほかがっちりと掴まれていて離れない。勿論、常人よりはるかに力のあるアルベルトには容易に引き剥がすことは可能だが、下手に力を入れるとシュウの幼い体を傷つけてしまいそうで、それが出来ない。これだから子供の相手は苦手だ。

「少しくらい相手をしてあげればいいのに」
言いながらフランソワーズがリビングに姿を現した。胸元にリボンがあしらわれた、青いワンピースを着ている。余所行きの格好だ。
「手が空いてるならお前が相手をしてやってくれ」
「そうね、そうするつもりよ」
すまし顔で答えた後、彼女はソファーの上でいまだアルベルトの腰に張り付いている少女に腰をかがめて呼びかけた。
「ねえシュウ、お買い物に行かない?」
「え?」しかめ面をしていた少女が、少し驚いて振り返る。
「これからジョーとショッピングに行くの。シュウも今の体に合う、お洋服とか見に行きたくない?」
「行く!」
弾かれたように身を起こしてソファーから降りたシュウに、やっと解放されたとアルベルトが安堵したのもつかの間
「アルベルトも行こうよ」
「勘弁してくれ」
思わず深いため息をつく。
「アルベルト、お願い。もう騒いだりしないから」
頼むから静かに過ごさせてくれ。
そう思って断ろうとしたものの、急にしおらしくなった幼いシュウに「断る」とも言いづらくなってしまった。返答に困ってフランソワーズを見やると「私は別にいいわよ」と返された。その後ろから「ここまでくると大人げねぇぞおっさん」という声も聞こえる。
「仕方ない。お前さんには負けたよ」
そう言ってシュウの頭を撫でて、立ち上がったアルベルトの足元で、「やったぁ!」と幼い声が上がる。

たまにはこういうのもいいだろう。


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