琥珀


ハインリヒはベットの上に横になり、腰の上まで毛布を被って読書に耽っていた。
そんな彼の静かな秋の夜長にノックの音が響く。

「ハインリヒさん、起きてるー?」

「起きてるが、読書中だ」
「それは丁度いい」

何が丁度いいのか、彼が尋ねようとする前にバタンとドアが開いた。
断りもなしに開けられたドアを見やると、開けた彼女は右手にグラスと四角い酒瓶を指に挟み、小脇に文庫本を抱えていた。
彼女はベットに横になって本を読むハインリヒを見て一言
「うん、予想通り」
と呟くと、彼の部屋に侵入し、机に持ってきた酒瓶と氷入りのグラスを置いた。

「予想通りだぁ?」

ハインリヒの疑問形の呟きには答えず、彼女は机に付属する木製の椅子の背を持って、それを抱えた。

「おい、何してるんだ」
「準備」

持ち上げた椅子を移動させ、ベット枕元にぴったりと横付けした後、机の上の酒瓶とグラスを取りに行き、移動させた椅子の上にそれらを乗せる。
なるほど、これはサイドテーブル代わりなのかとハインリヒは理解した頃、移動させた本人は、ベットの横で透明のグラスに、ウィスキーを注ぎ、それを一旦サイドテーブル代わりの椅子へ置いた後、ハインリヒの布団へと侵入してきた。

「おい、何を……」
「私も読書。今日気になってた本がようやく買えたんだ」
ごそごそを毛布の下へと滑り込んだあと、シュウは小脇に抱えていた文庫本を彼の前に掲げた。
「なんでわざわざここで読むんだ」
「ここで読みたいって思ったから」

そんな理由があるか、と抗議しようかと思ったが、お構いなしに本を開いて彼の隣で読書を始めた彼女には、何か言ったところで聞く様子はなさそうだった。結局勝手にしてくれと諦めたハインリヒは、少し壁側の奥へと体をずらした。
そのままの位置では、余りにシュウの寝ている面積が狭すぎる。




シュウがグラスを傾けると、カラン、と氷とグラスのぶつかる心地よい音が聞こえた。
蒸留酒の滑らかな鼈甲色の水面が揺れ、熟成されたアルコールのほのかに甘い香りがハインリヒの元まで届く。

「……いい香りだな」
「でしょ?これも、この本と同じく今日買ってきたの。ちょっといいヤツだから、最高の環境で飲もうと思って……ハインリヒさんもいる?」
「いいのか?」
「もちろん、そういってくれないかなって思ってた」

嬉しそうに微笑んだシュウは、持っていたグラスをそのままハインリヒへの差し出した。
それを彼女の手から受けとって、しばらくグラスを揺らしてから口元へと運ぶ。
彼がグラスへ口をつけた瞬間、隣のシュウがわずかに視線を泳がせ、頬を紅潮させた。
グラスの中で滑った氷が、再び音を立てて、口内に微かな甘さと香りが広がった。ロックで飲むのに適した、まろやかな味わいの質のいいウィスキーだ。

「照れるくらいなら渡すな」
彼に自分の内心を見抜かれたシュウは、既に若干赤かった頬が、さらに紅くなる。
「もっとクールに振るまえるかと思ったのっ」
すねるような言い方をしつつも、恥ずかしさのためかシュウの語尾は震えている。
「男の寝床に平気でもぐりこんで来るくせに、おかしな奴だ」

ちぐはぐな行動をとってしまうシュウに、ハインリヒは微笑まずにはいられない。

「で、どう思う?美味しかった?」
「ああ、最高だな」

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