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「突然のことでびっくりして、警戒されちゃうのもわかりますけど、ハインリヒさんに何かしようなんて思ってなくて」

「だから、その、良ければ一緒に連れて行ってもらえませんか?……いや、たまに会ってくれるだけでも良いんです」

「とにかく、もう一人は嫌で……」

独白を続けるシュウを前に、ハインリヒは険しい雰囲気をまとったまま、彼女をじっと見下ろしている。
「どうして俺を探していたんだ?」
「そう簡単に信じてもらえないと思いますけど、もう一度会いたくて……」
シュウはただ素直に自分の気持ちを口にしただけだったが、ハインリヒはその返答に更に強い疑いの目を彼女に向けた。その鋭さにシュウは「うっ」と身を固くしたが、それ以上弁解するつもりは無いようで、ただ黙ってハインリヒの次の言葉を待っている。

「わかった、いいだろう」
「え?」
「俺の仲間のところに連れて行ってやる」
「ええ!?」

思わず上げた声が深夜の往来に響き、シュウは慌てて口を抑える。
突然の大声にハインリヒが迷惑そうな顔で眉間にしわを寄せたので、シュウは「すみません」と小声で謝った。

「本当に良いんですか?」
「ああ。この状況の判断は仲間に任せる方がいい」
「ああ、そっか」

合理的な理由にシュウも納得する。彼の仲間か、はたまた彼の所属の研究施設では、解析が出来るのだろう。
そういう根拠のあるもので、正確に自分のことをわかってもらえれば、彼に信じてもらえるかもしれない。

「この時間だが、連絡すれば仲間も起きるだろう。ついて来い」
「あ、はい」

歩き出した彼の背中に向けて、ふと思った疑問を投げかけてみた。
「ここで私を処分しようとか、そういうことはしないんですか?」
「…………そうされたいか?」
「いえ、それは困ります」
そんな問答の後、しばらく沈黙が続いて彼が立ち止まり、シュウの方へ振り返って答えた。

「お前が何かとんでもないものを隠し持っていて、連れて行った先で……という状況にでもなれば、容赦せんがね」

その声音は無機質で冷たかったが、仲間を庇うための警告にも感じられて、彼は悪い人ではないのだ、とシュウは思った。
そしてここで大した性能は持っていません、と自己申告したところで信じてもらえるわけは無いし、余計に彼の警戒を強めるだけだと判断し、再び歩き出した彼の後を追った。

その時また、はたと疑問が浮かんだ。

(そういえばこの人は、どんな力を持っているんだろう)

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