07


「あッ」
手近な中華料理店で肉まんをほおばっている最中、シュウは例のドイツ人についてのことを思い出した。


彼について探りを入れるか近づくかしようと思っていたのに、彼と次に会う機会を確保するのを忘れていた。

(まあ、あの古本屋に通っていればまた会えるかな。)

そんな安易な考えで納得し、シュウの思考は頼んだメニューについての事柄へシフトする。
「すいません、ちょっと前に麻婆豆腐頼んだんですけど……」
「はいネ!今出来たからちょっと待つよろし!」
カウンターを隔てた先の、皿に料理を盛り付ける店主の言葉を聞いて、本場中国人がやってるんだ、美味しいわけだな、などとシュウは感心する。そういえば、忙しそうに店内を歩き回っているスキンヘッドのウエイターは白人だ。今日会った彼もドイツ人だ。

(なんか、国際色豊な町だな……)

それとも自分がいない間に日本の様子が変わっただけで、これが当たり前なのだろうかと考えているうちに、シュウの目の前に湯気の立つ料理を盛った白い皿が、どん、と置かれた。
「お待たせしましタ!四川風だから辛いアルヨ〜、熱いから気を付けて食べるネ!」



***


古本屋の前で、その日購入した本を抱えてシュウはため息をついた。
(今日も来ないかぁ……)
あれから二週間、シュウは毎日この本屋に通っていたが、いまだ彼とは出会わない。
商店街に立ち並ぶ建物の隙間から除く夕焼けの色が綺麗だ、と思ってみてもシュウの気持ちは晴れない。立ちっぱなしだったので、体もだるい。


ハインリヒに教えてもらった読書という暇つぶしを気に入ったシュウは、古本屋に行くたびに新たな本を購入する。
彼と出会った日からというもの、この町に来て最初に過ごした一週間では感じることのなかった充実感をシュウは感じていた。しかし、「今日は会えるかな?」という期待を抱きながら出かけ、なにも起こらずにホテルへ帰るという日々が二週間も続くと、さすがに倦怠感が期待感を上回ってくる。

(もう、会えないんだったらそれでもいいじゃないか……敵か味方かもわかんないんだし)

そもそも彼の本来の住居はドイツなのだ。また近いうちにこの古本屋に来るという保証はない。すべては自分の無計画さを呪うしかない、という結論に達してシュウはまたため息をつく。

けれど、諦めたところでシュウには他にやることがない。また最初の一週間のようにだらだらと暇を持て余して、間延びしたような日々に戻るだけだ。
瞬間、シュウの背筋に冷たいものが走る。

(あれ、もしかしてこれって……わたしってずっとこのまま?)


与えられた中途半端な能力によって、老いることも飢えることもなく、なんの変化もない日々を繰り返して、

ずっと?一人で?


「さ、探さなきゃッ……!」
考え付いた将来に対する漠然とした恐怖を振り払うために、シュウは思いついた言葉をそのまま口に出す。
「待ってるだけじゃ、だめだ、会いたいなら自分から探さないと……」

そうだ、とシュウは思い出す。
あの路地裏で、彼がサイボーグだと理解したとき、シュウは混乱しながらもそれがうれしいと思った。

「おんなじだから、うれしかったんだ……」

本を抱えて、呟きながらシュウは商店街を足早に歩きだした。




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