03


(もしかしてバレた?)
突然立ち止まり、次には急に速い歩調で歩き出した例の男を見失わないように、こちらも歩く速度を上げる。それはだんだんと速くなり、ほとんど走っているような速さになった。

(これはバレてる!)

遂には走り出した銀髪の男を追って、シュウも走る。もう目的は追跡ではなく話しかけることに変更していて、追いつくつもりで走っているのに全く距離が縮まらない。
「は……早っ……!」
仮にもサイボーグである自分が、並みの人間にすら巻かれそうになっていることに若干ショックを受けつつシュウは必死に後を追う。

「あッ……」

男が迷わず曲がった路地に入り込んだ時には、もう男の姿は見えなくなっていた。シュウは諦めずに路地を走る。
どうやら男は只者ではなさそうだった。

ますます気になる。

そして路地を抜けた瞬間、突然左から延びてきた手に、シュウは二の腕を掴まれた。

「うわあッ!!」

右に体制を崩しつつも、シュウは反射的にその手を振り払おうとし、それと同時にバチッという音が幽かに鳴った。それはシュウの能力による、微弱な電流が発した音だった。
「ッ!」
痛みを感じたのか、シュウの腕を掴んでいた男―――彼女が追っていた男が一瞬顔を歪める。男の手が離れ、シュウは不安定な体に支えがなくなりしりもちをついた。

「いった……!」
「くッ……!」

シュウは地面の上で腰を抑え、男はシュウを掴んでいた左手を抱える。

「どういうつもりだ、お前は。」
痛みに耐えつつシュウが顔を上げると、銀髪の男が色素の薄い厳しい目で、彼女を見下ろしていた。

銀髪の男を前に、シュウは混乱していた。

思わず能力を使用してしまったとき、シュウは目の前の男が、自分と同じサイボーグであることに気がついてしまった。

「あ……おじさんが、その……」
「俺がなんだ?」
強い口調で詰め寄られて、シュウは自分の軽率な行動を激しく後悔した。

「えっと……おじさんが格好良かったから、話しかけたいなとか、お昼一緒にどうかな、とか思って。でも、用事とかあったら、断られるの嫌だなって思ったら、いつのまにか後をつけちゃってて……」
「おじさんがなんとなく気になったから、後をつけちゃいました」とはいえない雰囲気だった。今思えばその「気になる」感覚も、彼がサイボーグだから感じたものかもしれない。

「後をつけてたら……おじさんが急に走り出したから、見失うと思って追いかけたら、こうなりました……」
あはは、とシュウが力なく笑うが、男の険しい表情に笑顔が引きつる。

「あまり褒められたもんじゃないな」
「ごめんなさい……」
男はしばらく訝しげな目をシュウに向けていたが、呆れたようなため息をつくと、シュウに手を差し出した。

「いや、こっちも脅かして悪かった。大丈夫か?」
「え……あ、ありがとうございます」

シュウが男の手を取ると、ぐッと上に引き上げられて、ほとんど自分の力を使わずに立ち上がれてしまった。

(あれ、案外友好的……?)

「あ、おじさんも手、大丈夫でした?静電気」
「静電気?」
「わたし、すごい帯電体質で、この時期になるとなんに触っても静電気が発生するんです。だから、大丈夫だったかなって」
「ああ、あれか。」

先ほど思わず発した電撃は、静電気と言うことにしてしまおう。

「あれは、なかなかに痛かった」
「う、ごめんなさい」
「そう言う体質なんだろ。謝ることはない」
「……ありがとうございます」
「なんで礼を言うんだ」
「いや、なんだか嬉しくて……」
思いがけず優しい言葉を掛けてくれる男に対して、シュウは自然と口元がほころぶ。

自分に対して敵意がないとわかれば、自分と同じサイボーグだということも、不思議な親近感に変わっていった。

そしてなにより

(なんか、結構格好良い……)

ここでシュウは、当初の目的を思い出した。

「おじさん、お昼食べました?」
「いや、まだだが」
「じゃあ、一緒にどうです?」
「……断ったら、また後をつけてくるんだろ?」
ニヤリと笑う男に、シュウも笑いながら答える。

「まあ……そうですね」
「なら仕方ない、付き合おう」



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