こども特権[中]


『003、聞こえるか、003!』
「聞こえるわ。どうしたの004。」
『シュウが居なくなった。どこにいるか探してくれないか』


* * *


自分の保護者係りを探して、歩き疲れたシュウは、ショッピングモールのベンチに座って途方にくれていた。

アルベルトと一緒に人波の中を歩いていたとき、通り過ぎざまにショーウィンドウをもう少しよく観ようと、ほんの短い間立ち止まって、気がついたらアルベルトの姿を完全に見失っていた。
しかし見た目こそ小さな子供だが、中身はいつもの彼女であるシュウは、同行者を見失ったくらいでは動揺していなかった。

(だって私、中身は幼い子供じゃないし。迷子になんてならないし)

けれどもそれは見当違いで、現在のシュウの視点の高さでは、周りを歩く大人はみな壁のようで、広い場所に出てもそれらしき姿すら見つけられなかった。

「はぁ……」

正真正銘の迷子だった。情けなさと心細さにうな垂れる。

シュウがギルモア博士の手伝いとして、007のメンテナンスの助手を務めていたとき、シュウの些細なミスで彼女自身が子供になってしまったのは昨日のこと。
ギルモア博士によると、メンテナンス用の機械を改造すれば元に戻るらしい。改造には数日かかるとのこと。

(なら元に戻る前に、子供という特権をフルに活用して、存分にアルベルトに甘えてやる!)

という企みを持ったシュウは中身まで幼い子供である振りした。結果、アルベルトには子供は苦手だといって避けられた。行き場のない子供特権をジェットに振りかざしたら、シュウが思っていた以上に遊んでくれた。結果的には、彼の新たな一面を見ることができたが、そんなものじゃまだまだ足りない。
やっとお互いの好意を認め合う事ができたのに、なんだかんだと理由をつけて距離を取りたがるアルベルトを翻弄してやるのだ。
元に戻る前になにか起こしてやろうと、やっとアルベルトを買い物に連れ出すことができたのに、自分は何をやっているんだろう。

「これじゃあ本当に子供だよ……」
「本当も何も、お前さんは子供だろ」
「!?」

顔を上げると、待ち望んだ保護者が立っていた。

「アルベルト〜……」

ほーっと安心して、目の前の保護者に抱きついたら、アルベルトはシュウの頭をぽんぽんと叩いた。

「まったく手間のかかる」
「……ごめんなさい」

頭にアルベルトの手の重さを感じていると、涙が出そうになった。
体の影響を受けて、心も子供に近づいているのかもしれない。

「どうして急に居なくなったりしたんだ」
「立ち止まって余所見したら、アルベルトがいなくなってた……」
「そうか……小さいからな、常に下を見て歩くわけにも行かないし」

そう言って、アルベルトはシュウの手をとった。

「今回の反省だ。こうしていればはぐれないだろ」
「ふーん」

アルベルトの大人の手に、シュウの小さな手がすっぽりと収まっている。
こうなれば嬉しい、と願っていたことが現実になったはずなのに、シュウは素直に喜べない。

(人前で手をつないでくれたことなんて無いくせに、わたしが子供だとこうも簡単に出来るのね。いや、子供だからか。)

「ふふ、デートみたいだね!」
恥ずかしがってしまえ、と若干いじわるな気持ちで言い放ったシュウの声が聞こえたのか、通りすがりの女性が二人を一瞥して微笑んだ。
対するアルベルトの微笑みは幼いものに向ける慈愛めいたもので、照れくささはない。
子供らしい笑顔は崩さなかったが、シュウは確かな苛立ちを覚える。

「さあ帰ろう。003も009も心配してる」
「うん」

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