ふと、書類を書く手を止め、時計に目をやる。 針は、ちょうど午前0時を回ったところにあった。 「遅いですね……」 なまえが“信女と居酒屋に行ってきます!”と屯所を出てから、五時間ほど経っていた。 嫌な予感がする。何しろ彼女は酒癖が悪いのだ。 「……迎えに行った方が良さそうですね」 信女が一緒だとはいえ、心配だ。面倒な事になっていないと良いが……。 しかし残念な事に、嫌な予感は的中した。 居酒屋では、なまえと真選組の鬼の副長が互いに睨み合い、口論していた。 酒がまわっているようで、なまえの頬は紅くなり、目が据わっている。 「なんだテメェ、喧嘩売ってんのか?」 『売ってないわよ!佐々木さんの体に傷をつけたのが許せないって言ってんの!』 「だから何だよ、俺の方がボロボロにされたっつーの!」 『はん!弱いのね。真選組の底が知れるわ』 「……言うじゃねぇか。ちょっと表でろや」 『上等よ!』 「よしなさい、なまえ」 二人の間に割って入り、刀に手をかけるなまえを片手で制す。 「……ちっ。テメェかよ」 『わぁ、佐々木さんだ!』 抱き着いてきたなまえを腕の中に収めると、アルコールの匂いが鼻につく。かなり飲んだようだ。 「申し訳ありませんね、土方さん。うちの者がご迷惑をお掛けしまして」 言いながら、鋭く睨みつける。 「それが謝る顔かよ。……そいつ、何者だ」 「……うちのバラガキですよ」 意味わかんねぇ、と酒を飲み始める土方さん。話は終わったようだ。 辺りを見回すと、すぐ近くの席で信女が酒を飲んでいた。 「信女、帰りますよ」 「嫌。まだ飲む」 「明日の仕事に障ります」 懐からドーナツの入った袋を取り出し、信女の前にちらつかせる。 「……帰る」 いつの間にか、なまえは私の腕の中で立ったまま器用に眠っていた。 「まったく、世話の焼ける子だ……」 なまえを背負い、ドーナツを頬張る信女を引き連れて夜道を歩く。 背中に感じる体温と、柔い月明かりが妙に心地良い。 『んー。佐々木さ……』 「寝言」 「そのようですね」 夢の中でも私の名を呼んでいるのか。 そう思うと何だか少し嬉しくて、自然と笑みがこぼれてしまった。 午前一時の小さな幸福 --------- 世話焼きで優しい佐々木さん。見廻組の二人とほのぼのなつもり。 |