※現代設定。スパイな夢主×殺し屋な佐々木さんのつもり。



作戦決行日は、空気が刺さるように冷たい1月。満月の夜。



真っ暗で埃っぽい天井裏を、口にくわえたライトの光に頼りながら腹這いになって進む。まるで、ネズミみたいな気分だ。

目的の位置まで来ると、格子状になった四角い排気口から、真下にある部屋の明かりが僅かに漏れていた。

ウエストポーチから工具を取りだし、音を立てないよう最大限の注意を払って排気口の蓋をはずす。

ここまで来れば、もう作戦は成功も同然だ。自然と唇が弧を描く。

だが、最後まで油断は禁物だ。再び気を引き締め、近くを通っていたパイプにロープをくくりつける。それを自分のベルトに繋げ、準備は万端だ。

蓋を取り外した排気口から覗けば、標的はちょうど真下でパソコンに向かっていた。

ロープを握り、上半身を少しずつ排気口から出していく。ある程度出た所で、右足を排気口の縁に引っ掛け、左足をロープに絡みつけた。

そこで一度呼吸を整え、右足を離して標的の背後まで一気に降下。両手をロープから離し、標的の首に腕を絡みつけた。標的の体が、ビクリと跳ね上がる。私の仕事は、いつも完璧だ。





『ああ、異三郎。やっと会えたわ』


絡みつけた腕に力を込め、滑らかな肌に頬擦りをする。


「また、あなたですか」


異三郎の肩に入っていた力が溜め息とともに抜け、腕をほどかれる。

仕方なく宙づりの体勢から回転して床に着地し、ベルトからロープを外す。


「そろそろ、本気で怒りますよ」


そんな言葉とは裏腹に、振り返った異三郎の顔には怒りよりも呆れの色が滲んでいた。


『ふふ。じゃあ、殺す?』

「ええ、そうしたいですね」


言いながら、モノクルを外して眉間を揉む異三郎。その肩ごしに見える、吸殻が山盛りになった灰皿。この吸殻の量で、いま抱えている仕事の忙しさがよく分かる。


「よくも毎回毎回、私の事務所のセキュリティをイーサン・ハントばりのアクロバットさで突破してくれますね」

『だって、そうしなきゃあなたに会えないんだもの』

「私は会いたくありません」

『うそ。本当は会いたくて仕方なかったでしょ』

「……」


黙る異三郎の膝の上に乗り、今度は正面から首に腕を絡みつけた。目を閉じた異三郎の眉間に、苦しげなシワが寄る。


『仕事が立て込んでる時は、厳重にロックをかけた部屋に閉じこもってたった一人で作業するなんて、あなたストイック過ぎよ』


耳たぶを軽く吸いながら甘噛みすると、異三郎の喉仏が上下に大きく動いた。


「一人の方が効率が良いんですよ。……そこをどきなさい、まだ仕事が残っています」

『少しぐらい息抜きをした方が、効率も上がるでしょう。……それとも、このまま我慢する?』


ひとつ、ふたつとシャツのボタンを外していき、現れた綺麗な鎖骨に舌を這わせる。

異三郎は大きな溜め息をつくと、腕を伸ばしパソコンをシャットダウンさせた。


「それが出来れば、苦労しない」


軽々と私の体は持ち上げられ、そばにあるフカフカのベッドに押しつけられる。

すぐさま侵入してきた熱い舌に、自分のそれを絡めた。いつもより激しい口づけに、体の奥がとろけていく。私に馬乗りになった異三郎の体からも、熱が伝わってくる。


「かないませんね、あなたには」

シャツを脱ぎながら、異三郎が悔しそうに呟いた。





その色鮮やかな掌で

(転がされる)
(転がしてあげる)


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「掌」→「てのひら」

最近、何本か見たスパイ物の洋画に影響されまくった結果。気のせいかもしれないけど、会話のテンポが洋画チックに……。

夢主と佐々木さんの対面シーンの宙づりはもろに、ミッ●ョン・インポッ●ブルを参考にしました。佐々木さんもイーサン・ハントって言ってるしね←

title by「恋するブルーバード」さま

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