※現パロのつもり。スーツな佐々木さんと通勤。



がたんがたん、と不規則に揺れ進む電車の中には、人がぎゅうぎゅう詰めになっている。

先程から踏まれたままの足が悲鳴をあげ、倒れまいとつり革を握り締めた手のひらにはマメができてしまいそうだ。

前後左右からの圧迫。たちこめる香水やら口臭やらの不快な臭い。

嫌な臭いと空腹のせいで、胃がむかむかと気持ち悪い。朝食を取ってこなかった事を後悔する。

つう、と冷や汗が背中を滑り落ちる。ああ、もうダメかもしれない。


『うぷ……。佐々木さ……おえっ』

「……何事ですか」


思いっきり眉間に皺を寄せ、全力で嫌な顔をされたけど別に気にしない。というか、それどころじゃない。


『いろんな人のにおいがして……うえっ。気持ちわるい』


凡人の私にはこの状況を回避する策が思い浮かばないのだ。ここはエリートのエリートな頭脳を借りる他ない。

きっとその高級そうなスーツの下からありとあらゆる便利グッズを差し出してくれることだろう。


「私はドラ●もんではありませんよ」

『何でもいいでず……。うっ』


いよいよ限界かもしれない。せめてもの抵抗として口元を両手で覆う。

が、つり革を離してしまったせいで電車の揺れに耐えきれなかった。

ぐらりと体が傾く。誰かにぶつかるのを覚悟してぎゅっと目を閉じた。


「……こうしていれば良いでしょう」


予想していた衝撃が体に走る事はなく、かわりにふわりと何かに包み込まれた。

鼻先が佐々木さんの逞しい腹筋に触れた。背中に手のひらの温度が伝わってくる。

甘いような苦いような、不思議な香りに包まれる。ひどく安心する、佐々木さんの香り。


『あ、ありがとうございま……。すーはーすーはー』


佐々木さんがいい香りすぎて、吐き気はすぐに消えてくれた。こんなチャンスは滅多にない。吸えるうちに吸っておこう。


「…やっぱり離れなさい」

『嫌ですもっと嗅ぎたい!すーはーすーはー』


むずむずと佐々木さんのお腹あたりに顔をうずめると、ぐぐっと片手で顔面を押し返された。


『む、それが女の子の扱いですか!』

「女の子?私の前には変態しかいませんが」

『あ、佐々木さん手のひらまでいい匂いですね』

「……」


呆れたように溜め息をつくと、私の顔から手が離れた。

電車が大きく揺れ、ゆっくりと停車した。開いたドアから淀んだ空気が逃げ出していく。


「ほら、降りますよ」

『はい!』


時おり漂ってくる大好きな香りに、帰りの電車も満員だったら、なんて思ってしまった。




満員電車の苦痛と至福



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満員電車もキツイけど満員バスもまたキツイ。そんな中で生まれた妄想。

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