03
『…………』
目が覚めると、昨日の服のままで自室の床に寝そべっていた。
あれから、どうやって部屋に戻ってきたのだろうか…。
『ッ……』
起き上がろうとすると、体全体が酷く痛んだ。
さすがに副長とだけあって、一般隊士より遥かに重い拳だった。
『また…だったな』
いつもいつも、暴行をうけている時には必ずあの人の顔が浮かぶんだ。
―会いたい。
思うより早く、私は屯所を飛び出していた。
痛む体に鞭を打って、ただ走って走って。
懐かしい場所が見えてきた所で、足を止めた。
“万事屋銀ちゃん”
少し気の抜けた字で書かれた看板を見つめてから、一歩一歩、踏みしめるように階段を登った。
こんなにゆっくりとこの階段を登ったのは始めてだ。
前までは駆け上がるようにして階段を登って、戸を開くと、暖かい笑みで “おかえり”と抱き締めてくれるあの人がいて。
家に入ればみんなが暖かく迎えてくれた。
でも、今は…?
真選組に住み込みで働き始めてから、一度もここを訪れていない。
何より今ここでは華恋が生活しているんだ。
『…………』
恐る恐る、戸を叩いた。
「へいへ〜い。どちら様…!」
『銀と…っ!』
戸が開いて、目があった瞬間、バシンッと平手打ちが飛んできた。
痛む頬を片手でおさえ、銀時を見上げる。
紅い目でギロリと睨まれて、思わず体がすくんだ
「てめー…。何でこんなとこに居やがる」
今まで聞いた事もないような、低く冷たい声で銀時が言った。
…違う。
そんな声音を、そんな言葉を、聞きたくて来たんじゃないの。
『銀時……』
「汚ねェ声で呼ぶんじゃねェ。…失せろ。お前ェみてぇな醜い女、見てるだけで目が廃るんだよ」
バシンと、空しく戸が閉まった。
“野郎が捨てるのも分かるぜ。お前みてぇな醜い女”
みにくいおんな…?
私のどこが醜いの?
…本当に醜いのは、私の大切な物全てを奪って、尚も嫌がらせを続けている華恋じゃない。
銀時も、私を信じてくれないの…?
もう、暖かく抱き締めてくれないの…?
ねぇ、一体誰が私を信じてくれるの…?
ポツポツと降りだした冷たい雨とは別に、温かい涙が頬を伝った。
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