01
銀時と結婚して、幸せな時期は確かにあった。
でも、それは全て一人の女の手によって奪い取られた。
―華恋。
ある日、万事屋に依頼に来たこの女は、銀時に一目惚れをした。
欲深いこの女は、銀時を自分の物にするために、有りもしない嘘をついて私と銀時を引き離した。
巧妙に細工して、私が浮気をした事にしたのだ。
私と離婚した銀時は、すぐに華恋と結婚した。
行き場を無くした私は、以前から働いていた真選組で住み込みの女中を始めた。
時を同じくして、華恋も真選組で女中を始め、私への嫌がらせが始まった。
「名前ちゃん。ちょっと来てくれる?」
『え、…うん』
屯所の中庭で洗濯物を干していると、華恋に呼び出された。
また、何かされるのだろうか…?
思いながらも仕方なく華恋のいる廊下に駆け寄った。
『なに?』
華恋は掃除中だったのか雑巾を片手にしていた。
「名前ちゃんさぁ。銀ちゃんにどれくらい“愛してる”って言われてたの?」
『えと…。たまに…』
「そうなんだぁ。華恋はね、毎日言われてるんだよ!耳にタコができちゃうくらい!!」
『そう……』
華恋は毎日、暇さえあれば銀時の事を自慢してくる。
「あ」
華恋が短い声をあげたかと思えば、持っていた雑巾を落とした。
『…?雑巾、落ちたよ』
差し出すと、華恋はそれを受け取ろうとしない。
『どうし…』
「オイ、廊下の真ん中で何やってんだ」
振り返ると 廊下の角に土方さんが立っていた。
「土方さぁん!名前ちゃんが華恋に全部の廊下の雑巾掛けやれって言うのぉ!!」
『は…?』
そんな事言ってない。
けど、華恋に雑巾を差し出している今の状況じゃ…。
「…名前。後で俺の部屋来い」
いつになく低い声音で
そう言われた。
『は、い…』
ここの人たちはもう、私の事は信用してくれないから…。
否定したって、無駄。
ちらりと華恋を見ると、その口元は妖しく歪んでいた。
(戻る術は、どこにあるんだろうか)
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