06
沖田さんに引きずられるままに屯所の自室へと戻ると、ゴミを投げるような乱暴さで畳に叩きつけられた。
雨に濡れて重たい着流しと、頬に張りつく髪が気持ち悪い。打ち付けた背中の痛みよりも、そんなことが気になるあたり、私はもうどこかが麻痺しているのだろうか。
「そ、総悟くん、もぉいいよ」
ご丁寧に濡れてもいない自分の体をタオルで拭いてから、華恋が沖田さんの腕を掴んだ。
「あたし、気にしてないから。名前ちゃんだって、ムシャクシャすることくらいあるんだよ」
その瞳の色を見れば、愉しんでいることがよくわかる。自分の部屋にペンキを撒き、私を悪者に仕立てあげた後に庇ってみせ、さも心が広い女のように見せかける。自作自演も、ここまでくると感心してしまう。
「華恋は、本当に優しい女ですねィ。それに比べて…おめえは何て醜い女だ」
吐き捨てるようなその言葉に、銀時のそれが重なる。
「……っ」
打たれた頬に、再びじんじんと熱が戻ってくる。 優しく私を撫でた手のひらで、あんなにも、容赦なく。何よりも、その事が私の心を痛ませた。
「こんなやつ、そう簡単に許しちゃいけませんぜ。根性、叩き直してやらァ」
金属の擦れる音に、驚いて顔を上げる。それと同時に、沖田さんの左手に頭をがっしりと鷲掴みにされた。右手に握られているのは、鈍く光る、大きな、鋏。
「い、や……」
何をされるか想像がついて、逃げようともがく。けれど、掴まれた頭が割れそうに痛むだけで、どうにもできない。
「暴れんなよ」
冷たい声を聞きながら、ふと以前沖田さんに言われた言葉を思い出した。
“あんたの髪の毛、艶々してて綺麗だよなあ。汚れてないって感じで、ホント万事屋の旦那にはもったいねぇや”
濡れて束になった髪の毛が、重たい音を立てて畳に落ちる。
「ブスにはお似合いでさァ」
ばさり。また、ばさり。
じっと耐えたまま、呼吸をするのが精一杯で、もう抗う力など残っていなかった。
畳の上に、次々と、広がっていく真っ黒な闇。それを、ただひたすらに、見つめ続けた。
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