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巨大BOWを倒した場所にはもはや何も残ってはいなかった。

一体こいつらは何なのか。

これがCウイルスとやらの脅威なのだとしたら、この抗体を持つジェイクの血液には
確かに10億円の価値があるのかもしれないと改めて思った。



私とピアーズさんが元の場所に戻った頃にはシェリーもジェイクもすでにそこにいた。


「ナマエ!よかった!無事だったのね!」


安心したように私を抱きしめるシェリーにようやく私も肩の荷が下りた。




ピアーズさんはクリスさんたちの元へ戻ったようだ。
私が礼をするとフッと微笑んで去っていってしまう。
何とも爽やかな青年だった。


これでやっと、安全な場所に行くことができる。


そう思うと安堵で力が抜けてしまいそうだった。


「おい、お前目ぇ赤くなってるぞ。俺がいなくて寂しくて泣いてたのか?」



ハハンと笑うジェイクの馬鹿にしたような冗談も、
もう聞くことができなくなるのかと思うとなんだか寂しい気持ちになるから不思議だ。


「ナマエ!?どうしたの!?どこか痛いの!?」



「・・・え?」



ふと頬に手を当ててみれば濡れていることに気が付く。






それを見たジェイクは何故か突然落ち着きがなくなったように慌て出す。




「じょ、冗談だろ。泣くことはないだろ!」


「ち、違う!ジェイクのせいじゃないし、どこも痛くないの!」



「じゃあどうして・・・」




シェリーは相変わらず心配そうに私の顔をのぞき込んでいる。




「・・・もうすぐ二人とお別れなんだな、って思うと、なんだか寂しくて」


「え・・・」


驚いたようにシェリーとジェイクが目を見開く。





そりゃあそうだろう。これでようやく安全な場所へ行けるというのだ。

安堵こそすれ、寂しがるなど正気の沙汰ではない。


だが私の涙はなかなか止まってくれなかった。



「・・・ナマエ・・!
私も、私も寂しいわよ!

私たちはそれぞれ歩んできた人生が違いすぎる。

確かにすぐに会おうって言ってすぐに会える訳ではないけれど、一生の別れではないわ。

だから、ね?もう泣かないで」




シェリーに再びギュっと抱きしめられる。



シェリーはその身体をそっと離すとジェイクの背中をバンと力強く叩く。

必然的にナマエの前に躍り出たジェイク。


涙を流す彼女を前にどうしたものかと眉間に手を当てていたが、再びシェリーに促されポツリと話しだす。




「・・・まあその、なんだ。生きてりゃいつか会えるさ。

・・・だからそんなに泣くな。余計に見れない顔になるぞ。ナマエ。」


ちょっとそれ慰めてるつもりなの!?と背後から怒鳴るシェリーを無視し、ジェイクはナマエを見る。


「・・・ジェイク、今私の名前、言ってくれた・・・!?」



先ほど泣いていたのが嘘のように瞳をキラキラさせて見つめてくるナマエ。


「そ、そうだったか?」



そのキラキラした瞳に気おされて少し後ずさるジェイク。



「もっかい!もう一回言って!」



今度いつ会えるかなんてわからないんだから、と寂し気に言うナマエ





「・・・・・・・・またな、ナマエ」



その瞬間ナマエはジェイクの首に抱き着く。


「なっ!?」


「ちょ、ちょっとナマエ!?
ジェイク!今すぐナマエから離れなさい


「お、俺に言うな!」


動揺を隠せないジェイクに狼狽するシェリー。

その様子が可笑しくて堪らないとでも言うようにクスクスと笑うナマエ。


「シェリー、ジェイク。大好き。また会おうね。」


ジェイクに抱き着いたまま彼の胸に顔を埋め言うナマエ。



「・・・私も大好きよ。」



「・・・・・・」

そんなナマエに答えるかのようにジェイクは彼女の小さい背中を抱きしめた。

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