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戦闘のせいで建物がほとんど倒壊してしまっている街へ足を踏み入れる。


ここもかつては普通の市民が生活する場所だったのだろう。


自分の住んでいた場所はどうなっているのか不安になるが、今はそれを知るすべはない。


(お父さん・・・お母さん・・・)



シェリーがBSAAの隊員に近づき自分たちは危険ではないことを伝えている。


彼女が話している人はキャプテンと呼ばれていることから、恐らく隊長さんなのだろう。


ガタイが良く近寄り難そうに見えるが、どことなく優し気な目をしている。




「シェリー・バーキン?ラクーン事件の?」


「知っているの?」


「ああ、クレアから聞いている。妹が世話になっているな。」


「じゃああなたがクリス!?」



どうやら二人は知り合いを介しての知り合いだったらしい。
それならば疑われることもないだろうと安心してジェイクの横に待機する。



「あんたは行かなくてもいいのかよ。」


ジェイクが訪ねてくる。


「私が行っても何もできないもん。それに話はつきそうだし。」



そうかよと言い再び宙を見つめるジェイク。一体何を考えているのだろう。




そうだ。シェリーの仲間ヘリが来たら彼ともお別れなのだ。

そう考えると何とも言えぬ気持ちになる。




「そっちの男と女性は?」



突然こちらに話を振られて思わずジェイクの影に隠れる。




「クリス隊長。その男、反政府軍のゲリラです。」


短髪のやけに大きな銃を持った精悍な顔つきの青年がジェイクをにらみつけるように言う。



「彼は傭兵です。訳あって合衆国が保護しました。危険はありません。

そっちの女性は反政府軍のアジトに囚われていたところを保護しました。
ここで私の仲間と落ち合う手はずになっているので、これから安全な場所まで移送します。」



シェリーの言葉に一先ずは納得がいったのかそれ以上はその青年も何も言わなかった。


しかし、その顔は相変わらずジェイクを睨みつけており警戒を露わにしているのが良く分かる。




さあ、あとはヘリを待つだけだ。そう思った瞬間__



とてつもない大きさのBOWが来襲する。


「なに・・・あれ」


あまりの大きさに恐怖と言うよりは何かが麻痺してしまったかのように何も感じない。


流石のジェイクとシェリーも目を見開いて驚きを隠せない様子だ。


「ここは我々に任せて君たちは避難を。」


「いいえ!私も戦います。ジェイクはナマエを連れて安全な場所へ!」




「・・・やなこった。お前の指図は受けねぇ。」


そう言うとジェイクは巨大BOWに向かって走っていってしまった。


「ジェイク!」



その様子を見たクリスはハァとため息をついたかと思うと短髪の青年に目配せする。



「こうなったら彼女も連れていった方が安全だろう。地上に残すよりは安心だ。

ピアーズ、彼女の護衛を。遠距離から攻撃するのを得意とするお前の傍が一番安全だろう。」


「了解しました。」


「総員、作戦開始!」


「Yes Sir!」



クリスの一声によりBSAAチームとシェリーはそれぞれの持ち場に散会する。
その姿はあっという間に見えなくなってしまった。



私も短髪の青年に促され建物の中へ移動する。


「俺はピアーズ。アンタ、名前は?」


ピアーズと言う名の青年は大きな銃を構えながら私に訪ねてくる。



「ナマエと言います。・・・すみません。私なんかが着いてきて・・・」




「関係ない。俺は任務を遂行するだけだ。アンタは絶対に俺から離れるな。」



彼のどことなく突き放すような言い方にそれ以上何も言えなくなってしまう。



ピアーズさんは恐らく狙撃手らしい。
私たちは外のメンバーよりもより遠くの建物の屋上へ身を潜めていた。



屋上の隙間から化け物に向けてライフルを構えるピアーズ。
ドンッと凄まじい音がしたかと思うとそれは見事化け物の背中の露出した弱点に命中したようだ。



私にも何かできることがないか探すが、私が持っているのはこのハンドガン一丁のみ。


いや、例え彼のような武器が他にあったとしてもこの距離から命中させることなどとてもできないだろう。

大人しくしておくべきか。



ふと屋上の入り口に目をやると、一体のジュアヴォが中に入ってこようとしているのに気が付く。



(あのままにしておいたら、マズイ!)


ピアーズさんに知らせるべきか。
だが彼は次の射撃のため標準を合わせて集中している。



とても話かけられる雰囲気ではない。


(私がなんとかしなきゃ)


そう決意し、自分でも当てられそうな距離へと物陰に隠れながら少しずつ近づく。




まだ、奴はこちらに気が付いていない。キョロキョロと辺りを見回すジュアヴォ。



しかし奴は何を思ったのか物陰に隠れる私を通り過ぎ、目に入ったピアーズさんの方へ向かおうとする。



(嘘!ピアーズさん!)



彼と敵の距離はわずか5メートル。飛びかかれば届いてしまう距離だ。


もう迷っている時間はない。
そう判断した私は震える手でハンドガンを構える。


幸い私と敵の距離はそれほど離れてはいない。





人間くらいの大きさの的なら絶対に、当たる!




ジェイクに言われた通り安全装置をはずす。


「こっちだ!化け物!」


その声に敵は振り返る。その瞬間、弾を打ち込んだ。


弾は偶然にも敵の額を貫いていた。

「・・・当たった・・・・」


茫然とする私を他所に一瞬で状況を理解したピアーズさんが、怒ったような表情でこちらに近づいてくる。



「この馬鹿野郎!なんで俺を呼ばなかった!」


あまりの剣幕にポロリとハンドガンを地面に落としてしまう。


「なんですぐに俺を呼ばなかった。」

当たったからいいものの、自分が囮になるなんて死にたいのか!?」



彼の言う通りだ。
当たったから良いようなものの、はずしたときには私だけじゃなくピアーズさんの命も危険だったかもしれない。

今更ながら自分が人の命を危険にさらしたことに気が付き後悔する。



「す、すみません、でした・・・」



卑怯だと思って居ながらも視界が潤むのを止められない。

必死に堪える私を見たピアーズさんがハァとため息をついたかと思うと、私の落とした銃を拾い渡してくれる。



「・・・悪い、言いすぎた。

でもお前の今の判断は間違っていたと思う。そこは理解してくれ。


__だけどお前のお陰で助かったのも事実だ。」



ピアーズさんが指さす方向に目をやれば、あの巨大な化け物は液状となり消滅している所だった。




「お前のしたことは褒められたものじゃないが、一応礼は言っておく。


ありがとう。ナマエ」


すると慰めるようにポンと頭に手をやり通り過ぎていく。




「・・・はい!ありがとうございます・・・ピアーズさんっ!」




するとピアーズは一瞬微笑み「戻るぞ」と声を掛ける。



その背中に私は今度こそ置いて行かれないように続いた。

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