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ここは、戦場か。


先程までジェイクが所属していた反政府軍とBSAAが対立する中を命からがら生き延びた三人。


一時的にではあるが両者の攻撃の届かない落ち着ける小屋を発見し、自己紹介をかねてお互いのことを話す。



「んで前払いで20万ドル。BOW一体につき追加で1000ドルだ。」


突然現れたシェリーを、傭兵として雇いに来たものだと思っているらしい。

「ジェイク・ミューラー。雇いにきた訳じゃないの。
あなたにはCウイルスに対する抗体がある。先ほど打った注射の中にもCウイルスは含まれていたの。
でもあなたは変異しなかった。」


それを聞いたジェイクは先ほど注射を打ったであろう首を抑える。

今までの落ち着きが嘘の様にキョロキョロとし始める。
その分かりやすい様子に私は思わず吹き出しそうになる。

見た目の割に彼はあまり怖い人ではないのかもしれないと思った。


しかしシェリーの目的が自分の血液だと知った彼は、すぐに切り替えたのか頭を商売の方に持って行ったらしい。


「5000万ドルだ。それで俺の血液を500tやる。」



日本円で約10億円。
ドルだとよくわからないがとんでもない額に目玉が飛び出そうになる。


(何この人…)
少し金金言いすぎではないだろうか?

お金は大切だし私も欲しいとは思う。
だけどやはり金は金でしかないのだ。つまりこの人はこう言っているのだ。
『金次第で敵にも味方にもなる』と。


取りあえずお金の件はシェリーの一存では決められないらしく、彼女の上司の連絡を待つこととなった。




「で、あなたはどうしてあんな所にいたの?名前は?見た所日本人よね?」


突然話を振られて心臓が飛び出そうになる。二人からの注目に顔から火が吹き出そうだ。


「ナマエミョウジです。18歳です。
父の仕事の関係でイドニアに一か月前に移住してきました。」


年齢を言った所でジェイクに噴出される。



「18!?おいおい、俺と2つしか違わないじゃねえか!日本人ってのは随分と若いんだな!」



私の上から下までジィっと観察した後に笑いを堪えられないとでも言うように爆笑される。


「なっ・・・!?」


(めっちゃバカにされてる?!)





「ジェイク!あなたは黙ってて!私は彼女の話を聞いているの!
日本から紛争地域であるイドニアにわざわざ移住なんて…珍しいわね。

失礼だけどお父様は何をされている人なの?」


ジェイクを諫めるように起こるシェリー。怒った顔もめっちゃかわいいです。


「えっと…父は何かの研究をしていたようでした。なんの研究かは私にも教えてくれなかったんですが。

でも昔は確か・・・アンブレラっていう会社に勤めていました。」



それを聞いたジェイクとシェリーは目を見開く。



「アンブレラ社・・・そりゃまた」


「あなたもこの件に無関係って訳ではなさそうね・・・」



苦虫を潰したような顔をする二人に訳が分からず疑問符を浮かべる。

その様子を見たシェリーが優しく微笑む。



「・・・お父様はあなたに何も教えていないようね。
でもあなたが今回誘拐されたのにはそのことが少なからず関わっていると思う。
教えてくれるかしら。昨日何があったのか。」



私の両手を握りながら優しく問いかけるシェリーに頷く。


「私にもなんであそこにいたのか、わからなくて・・・。目が覚めたらあそこにいたんです・・・。
昨日は学校から帰って、普通に家族と過ごしていました。

でもそこから何も覚えていなくて・・・。」



そうだ。昨日は普通に学校から帰り家族と過ごしていた。しかしそこからの記憶がプツリと途切れたようにない。
自分は何故こんな危険なところに・・・


そう考えるとジワリと目元が熱くなるのを感じる。



それを見たシェリーがジェイクに詰め寄る。


「あなたたち反政府軍はこんな少女の誘拐までしていたの?」


「俺は知らねえよ。ただの日雇いの傭兵だからな。
中枢の奴らの考えることなんてしらねえ。」


それを聞いたシェリーは激昂したようにさらに詰め寄る。


「知らないじゃないわよ!こんな幼気な女の子に何をさせようとしていたの!?」



「おいおい、俺は何も知らねえって言ってるだろ。」



何やら険悪な雰囲気になり始めたので止めに入る。



「シェリーさん!とりあえず今はここを抜けないと・・・。
ここだって安全ではないんですよね?」


そう言うと彼女は次の言葉を飲み込む。


「・・・そうね。とりあえずここを抜けるのが最優先。
ナマエ、あなたは私とジェイクが安全な所まで必ず送り届けるわ。安心して。」


「おい!なんで俺が・・・」


「当たり前でしょ。彼女は戦えないんだから。
それに一般人をこんな所に置いて行くわけにはいかない。」


ジェイクは「めんどくせえな」と言いながらそれ以上は何も言わなかった。


確かに面倒だと思う。自分の身すら満足に守れないお荷物がいるのだから。

それが何とも申し訳なく、せめて彼らの足手まといだけにはならないように上手く立ち回ろうと、そう決意した。


「使うか使わないかは別としてやっぱり持っていた方がいいと思うの。
もちろんできる限りのことはするわ。でもこんな状況だし毎回私たちが守ってあげられるっていう保証はできないから。」


そう言われ彼女から渡されたハンドガンと無線機。
小さいはずなのにズシリとした重さを感じる。

その存在感に私の手は無意識に震えた。



「弾の無駄じゃねえのか?」


「ジェイクは黙ってて!」



確かにジェイクの言う通りかもしれない。
触ったこともなければ実物を見るのも初めてのソレをまともに扱うことができるのか。


いや、そもそもいざという時に、コレを打つことができるのか__



「私はこの先が安全に通れるかどうか確認してくるわ。ジェイクは彼女を。」


「え!」



(シェリーさん行っちゃうの!?この厳つい男と二人にしないでー!)




そんな私の心の叫びも空しく、彼女は先に行ってしまった。


「・・・・・・」


なんとも言えない気まずい空気が流れる。


「・・・おい。」


「ひゃいっ!」



突然話しかけられて変な返事をしてしまう。


「クク…なんだよその返事は。別にとって食いやしねえから安心しろ。」


不敵に笑うジェイクにこちらも口角がヒクヒク上がるのを感じる。



「お前それの使い方、わかるのか?」


彼の目線の先には先ほどシェリーさんから借りたハンドガン。

言われてみれば打つ決意する以前の問題であった。



「・・・わかりません」


するとジェイクはハァと大げさなくらい大きなため息をつく。



「し、仕方ないじゃありませんか・・・触ったのも初めてなんです・・・」


「分かってる分かってる。
お前が一般人だってのにソレだけ渡してどっか行っちまったあの女に呆れていたのさ。

確かに日本に住んでたってなら見たこともないってのには納得だがな。」



そう言うとジェイクは私の後ろから手を回して私の手ごと銃を握る。


「じぇ、じぇいくさ・・・」


突然の密着に私の頭は着いていけてない。



「いいか。構えはこう。打つときはこの安全装置を下げて・・・」



耳元で囁くように説明するジェイクだが、生憎その説明を聞いている余裕は今はない。


重なる手に嫌でも男を意識する。


(手おっきい…!ゴツゴツしてる…!)



「おい、聞いてんのか」


「ぎゃあああああ!!」



羞恥が限界に達した私は悲鳴を上げて小屋の外へ飛び出す。



「おいバカ!止まれ!」



その声に気が付いたのか一匹の化け物が私へと襲い掛かる。



そのジュアヴォからミョウジを庇うようにジェイクは彼女の手を掴み自身の後ろへと回す。


そして華麗に回し蹴りを決めた。

「・・・すご」


やっぱりこの人の格闘技はめちゃくちゃかっこいい。



「馬鹿か!あぶねえから離れんな!何かあったら俺がどやされるだろう!」


「・・・・・・かっこいい」


思わず声に出てしまう。




それを聞いたジェイクは「はあ!?寝ぼけてんのか」と言ったかと思うとパッと私の手を離してしまった。



(ヤバイ。今声に出してた?)

でも事実だったのだから仕方がない。またもや気まずい雰囲気になりお互い黙り込む。



「ところでさ・・・お前、その服装どうにかならないのか。
さっきからお前がバカする度に見えてんだよ。」


思わず自分の格好を見直す。


私が今着ているのは学校指定のブレザー。そして見えているというジェイクの台詞。

そこから導き出される一つの答え。


(パンツ見えてた!?)


今更スカートの端をつかみ慌て出す私にジェイクはハンッと鼻で笑う。

やっぱりスパッツ位はいておくべきだったと後悔する。



「安心しろよ。ガキには興味ねぇから。」


「じゃあ見ないでよ!」


勝手に見ておいてそれはないだろう。思わずジェイクに食い下がる。



「俺の視界に入ってくるのが悪いだろ!」


「そこは見ないのが紳士ってもんでしょ!」



お互い噛みつくように言い合う。


ちょっとでもかっこいいと思ったのがいけなかった。全然この人紳士的じゃない!



そこにタイミングよくシェリーが戻ってくる。


「二人とも。この先は安全・・・。あら、随分仲良くなったみたいね」


「なってません。」


「ちっ!さっさと行くぞ。」

そう言って二人の後に続いた。

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